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ベンチャー支援と「リエゾン九州」の試み

販売チャネルの開発や
宣伝方法に一工夫を

 第3次ベンチャーブームがいわれて3年以上が経過した。その間に行政の支援制度を含め様々なサポート体制が整備されてきたにもかかわらず、第2次ベンチャーブームの時と比べるとベンチャー企業があまり育ってない。こう書くと、そんなことはない、とお叱りを受けそうだが、少なくとも九州や日本を代表するベンチャーは育ってない。ブームと名が付くからには、有力なベンチャーがもっと出てこなくてはおかしい。なぜ、今回は有力なベンチャーがあまり育ってないのか? 九州に成長著しいベンチャーが出てこない理由は別のところで書いたので、ここで再度触れるのはやめにするが、簡単にいえば新規性、面白味に欠ける製品(商品ではない)が多いということである。
 かといって、新規性・面白味がある商品が全くないわけではない。なかには「これは」という商品や、「もう少しなんとかすれば」という製品、あるいは「販売チャネルや宣伝方法を変えればもっと市場に受け入れられるのではないか」という商品もある。ところが、そういう企業や製品が意外に知られていなかったりする。もう少しなんとかならないか。そんな苛立ちを覚えたのはなにも筆者一人ではないだろう。
 筆者が九州の中小企業を本格的に取材し始めたのはいまから10年前。製造業の現場が3Kと嫌われ、円高で企業の海外移転が進み、産業の空洞化がいわれていた頃である。このままでは九州の中小企業は成り立っていかなくなる。九州、いや日本の産業を支えているのは圧倒的多数の中小企業であり、中小企業が成り立っていかないような社会に未来はない。そんな危機意識のようなものを感じ、優れた技術を持った中小企業を訪ね、1社1社の技術を月刊誌で紹介してきた。技術交流の第1歩は互いに持てる技術を公開することからだと考えていたからである。


技術の出前、指導の出前で
中小企業を支援しよう

 このような取材を通していくつか感じたことがある。1つは中小企業の情報不足である。例えば行政が発信している支援諸制度にしてもあまり知られていない。知られてないから当然利用もされない。ここにミスマッチが起きる。
 各種研究機関の利用にしても同じことがいえる。国・県・大学の研究機関は一様に「地場中小企業に門戸を開いている」という。ところが中小企業に言わせれば「敷居が高い」となる。中小企業の経営者は1人何役もこなさなければならず、忙しい。大学や国・県の工業技術センターと共同研究をした方が後々役に立つと分かっていても、そのために割く時間がないのだ。
 では、どうすればいいのか。現場に出かけて教えてやればいいのだ。いわゆる技術の出前、指導の出前である。もちろん出前だから、そんなに高度なことを教えたり指導できるわけではないだろう。だが、現場でのちょっとしたアドバイスや指導で改善されることは多いはず。それをやろうとしないのだから、敷居が高い、と言われても仕方ない。
 2つめは、つくったモノが売れない悩みである。これには販路を持たないという面と、マーケットを考えずに自分の勝手な思い入れのみでつくっているという面がある。これは大いに改める必要がある。


リエゾン九州は非営利目的の
ベンチャー支援集団

 概して技術分野の人間はモノをつくることには一生懸命だが、それを売るためにどうすればいいか、ということを考えるのは苦手な人が多い。それならいっそ、その分野を他の人間が担当してやればいい。技術の出前ではなく、企画や販促・マーケティングなど、異知恵の出前である。
 こんな組織があれば、ないないづくしのベンチャー企業なんかは大いに助かるに違いない。行政もベンチャー支援というなら、こんな組織をつくったらどうだ、と思ったが、行政や大きな組織がつくるものは図体が大きくなりすぎて小回りが利かなくなる。そうなれば器をつくって事足れりとする従来と同じで、実効性がないだろう。要は実効性が大事で、結果を出せる組織を作らなければ意味がない。そう考えて発足させたのが「リエゾン九州」である。
 「リエゾン」とは「橋渡し」とか「連結」という意味のフランス語。中小企業同士の技術と技術、人と人、商品と販路の橋渡し、連結を目指して付けた名前である。
 この組織の最大の特徴は非営利目的のボランティア組織という点と、議論だけでなく、メンバー各人のノウハウや人脈を用いて具体的な提携締結を目指している点である。
 似たような組織が存在しなかったからなのか、日刊工業新聞に「企業を無報酬で応援」と掲載されたからなのか、1カ月間に50件も全国から問い合わせの電話がかかってきた。これにはこちらも少々慌てた。


望みたいパートナーシップ
他人の力頼み的な態度はダメ

 さて、短期間にこれだけの問い合わせがくると、それなりに現在ベンチャー企業が悩んでいる問題、抱えている問題も見えてくるので、それを次にまとめてみよう。
 まず、最も多かったのがやはり販売に関するもの。それには販売方法の相談から販路の紹介、代理店募集など実にさまざま。それも新たに開発した商品ばかりではなく、輸入商品の販売や、現在、システム販売をしている商品の他の販売方法に関するものまであった。
 やはりベンチャー企業の最大の悩みは開発した商品が売れないということである。特に現在のような不況の時代は多少のニーズやウォンツがあるぐらいでは売れない。いわんや「あると便利」という程度の商品はなおのことである。それらを売るためにはさまざまな工夫が必要になる。それを「リエゾン九州」に求めてきているのだ。
 次が出資者探し。さらには製品化の権利を売りたいというものもあった。ベンチャーの中には開発するのは好きだが販売や会社経営は苦手という人も多いはず。開発したからには、なにがなんでも起業化しなければいけないというわけではないだろう。得意分野に特化するのも方法である。権利を売って開発にかかった資金を回収し、また次の開発にとりかかってもいいではないか、と筆者はかねがね思っていた。こういう例が増えてきたということはそれだけベンチャーの波が拡大してきたということだろう。
 ここで我々が実際にかかわったある例を紹介しておこう。依頼は当初、出資者探しだった。そこでベンチャープラザへの出展や中小創造法の認定、県のベンチャー財団などの情報を伝え、実際に通産局新規事業課を紹介しもした。ところが一つ引っかかることがあった。特許庁への実用新案申請ではなく、知的所有権協会に知的所有権の登録をしているという点だった。調べてみると、その協会に登録しても法的な権利は得られないことが分かったので、すぐ弁理士相談窓口を紹介し、正規の申請をするようにアドバイス。もし、その協会への登録が特許権等と同じ効力を発揮すると信じたまま商品開発をしていたらと思うと怖くなる。
 ところで、気になるのがベンチャー経営者の態度だ。我々がボランティア組織だから気軽に相談してくるのだろうが、中には全く他人の力頼み的な態度の人や、ただのものは親でも使えという態度の人もいる。これではせっかくいい商品を開発されていても、支援しようという気にならなくなる。必要なのはパートナーシップの精神ではないだろうか。もちろん最初からフィー(報酬)はどうすればいいでしょうかと丁寧に申し出てくれる人もいるが……。
 ベンチャー企業1社が成功する陰には多くの人々の支援があるに違いない。逆にいえば、いかに多くの人々の支援を得られるかどうかが成功への道といえるだろう。



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