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海や湖の汚染が大きな環境問題になっている。環境庁がこの11月にまとめた1993年度公共用水域水質測定結果によると、河川の汚染は改善傾向にあるが湖沼の汚染は依然深刻な状態である。 九州でも大村湾など閉鎖性の強い水域、海域ほど汚濁が進行している。自然の生態系を壊さないためにオランダの運河づくりに学んだ、あのハウステンボスの運河でさえ汚濁が進行しているという。様々な企業が閉鎖性水域・海域の浄化作業に乗り出しているが、未だこれといった決定打がないのが現状である。 ところが最近、閉鎖性水域・海域の水質浄化に威力を発揮している装置がある。マリン技研(長崎市古町22、年商2億3000万円、吉永勝利社長、従業員数14人)が開発した水質浄化装置「ジェット・ストリーマー」がそれだ。
噴流の放出で底層を活性化
「水は動かすだけで活性化するんです。これが私の持論です」 吉永氏はこう語る。従ってジェット・ストリーマーの基本も「水を動かすだけ」である。構造原理図を見ていただければお分かりのように、装置もいたってシンプルだ。外観は大きな円筒形のパイプの中にノズル付きの小さなパイプ(噴流ポンプ)が入っているだけ。飛行機のジェットエンジンのようなものと思えばいいかもしれない。 原理は次の通りである。 @陸上または水中のポンプから水(駆動水)を噴流ポンプに送り込むことで水流を発生させる。 Aすると吸引口には負の吸引力が働き、周囲の水が整流筒(円筒形のパイプ)内に吸い込まれ連行流を生じる。 B外筒の吐出口付近では連行流はさらに大きくなり、墳流される。この時の吐出水量は駆動水の吐出水量の約20倍である。 C底層水の中にこの強力な墳流水を放出し、停滞している水を動かす。 それだけのことで本当に水質浄化が可能なのかといぶかる向きもあるだろう。その疑問に答える前に水質汚濁のメカニズムを簡単に説明してみよう。 閉鎖性水域では水の入れ代わりがなく、表層水と底層水の循環が行われない。しかも夏期の高温期に水の表層と底層の間に水温、密度などが異なる層が形成され、表層と底層水の循環がますますできにくくなる。そのため底層の酸素は消費される一方で、溶存酸素量(DO)が低くなり、底泥中の有機物の嫌気性分解が促進され、硫化物やアンモニア、メタンなどの有害物質が発生する。 つまり、一番の問題は水の底層が停滞したまま動かないことだ。そこで底層水を動かし、表層水との間に循環をさせようと考えたのがジェット・ストリーマーの原理である。
低エネルギーで大量の水を動かす
吉永氏は「ポイントは水対水」という。コンプレッサーで圧縮した空気を水中から真上に打ち上げる空気弾方式のものや、プロペラで水流を起こすものなど、たしかに似たような仕組みのものはほかにもある。だが、プロペラ方式はヘドロを巻き上げるし、空気弾方式は方向を自在に変えられないという欠点がある。 その点、ジェット・ストリーマーは縦方向でも横方向でも斜めでも自由自在に据え付け角度を変えられるため、水深や水域の状態に応じた設置ができる。 しかも低コスト。空気弾方式にしろ、エアーコンプレッサーで底層に空気を送り込むシステムにしろ、莫大な電力コストがかかるものが多い。ところがこのシステムの場合他とは比べものにならないほど電力コストが低いのが特徴である。 例えば熊本・三角の石打ダムに設置したシステムは5・5`h。これだけの出力で60万トンのダムの水を動かしているのである。 水中に設置される本体部分には回転部等の機械的部分が一切ないのでメンテナンスは不要。また水上に大きな突起物など周囲の景観を損なうようなものも一切ない。逆に駆動水の一部を利用して噴水を造ることもできるのだ。
三菱重工と共同出願の特許
原理も構造もシンプルなだけに悩みもある。なかなか効果を信じてもらえないのだ。有り体にいえばありがたみが薄いということだろう。ヘドロを巻き上げる、巻き上げないで、「役所と大げんか」をしたこともある。その時はすでに契約が終わり、引き渡し段階だったが、「もしヘドロを巻き上げたら持って帰りましょ」と大見栄を切った。 よほど自信がなければできることではない。その自信を支えたのは絶対にいい結果が出るという確信と、豊富な実験データである。 例えば石打ダムの場合、ジェット・ストリーマーの運転前は水面の温度が30℃なのに水深20b近くの水温は7℃しかなかった。それが運転開始1週間後には水面で23℃、水深20b近くで15℃とほとんど水温に差がなくなっている。これが2カ月後には水面も底層も26℃になっている。 また溶存酸素量は運転前が2bまでの水深で13〜19mg、水深9b以深はゼロだったのが、運転開始2カ月後には7mgで一定している。この二つのデータから表層と底層の循環が完全に行われているのが分かる。 こうした水温の鉛直変化、溶存酸素量の鉛直変化等の実験データの収集、解析、シミュレーションは三菱重工長崎造船所が行っている。 特許は国内、アメリカ、韓国、台湾、中国に出願中。ヨーロッパは出願準備中。いずれも三菱重工との共同出願だ。 三菱重工との提携は長崎の異業種交流会でできたもの。自社の力だけではとても膨大な実験データの収集・分析などできなかっただろう、と吉永氏は振り返る。それだけに「異業種交流は最高の場所だ」と言い切る。 長崎県琴海町の形上湾で94年6月から「ポセイドン」を使った水質浄化装置の実用化試験が行われているが、実施主体の長崎マリン技術開発協同組合はマリン技研ほか5社の異業種企業で組織する組合。ポセイドンはジェット・ストリーマーの海洋向けネーミングである。 中小企業が成功する秘訣を尋ねると「欲張らないこと」という返事が返ってきた。 「何もかも自分一人では出来ない。80%うまくできても残り20%ができない。では20%を他人に協力してもらえばいいんです。全部儲かろうと欲張ると失敗します」
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