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〜岩田正人・つるや社長インタビュー(1)


 「ローカルビジネスこそ次世代ビジネス」と題して、岡山市など人口集積都市が多い県南ではなく、人口が拡散している県北を中心に展開している企業「つるや」等のことを書いたのがちょうど3年前である。
 その頃から、一度トップインタビューをしたいと思っていた。というのも、あの原稿は「つるや」の直接取材なし、傍から観察していて書いたものだったからだ。内容に関しては大きく外れたところはないだろうという自負はあったものの、それでも一度、直接取材をしたいという思いがずっとあった。
 そこで6月に帰省した折、岩田正人社長に取材を申し込んだところ快諾いただいた。
「栗野的視点(No.485):ローカルビジネスこそ次世代ビジネス」
「まぐまぐ」掲載ページと併せ、お読みいただくと、より理解できるのではないかと思う。

県北で出ていないのは新見だけ

 −−実は私の実家のすぐ近くに「つるや」の店があり、帰省中にはちょくちょく利用しており、その頃から面白い店だなと感じていました。面白いというのはこんな過疎地でよく商売が成り立つなという意味で。
 その次に興味を持ったのが蒜山の茅部神社に写真を撮りに行った時、農作業をしていたおばあさんを見かけ世間話ついでに「この辺は買い物も大変でしょう。どうされているんですか」と尋ねると、「つるやか道の駅に福祉タクシーを使って買い物に行く」と言われたんです。これが私には驚きでした。蒜山は過疎地というイメージでしたから、こんなところで商売が成り立つのだろうか、と。
 それで調べてみると県北にしか出店されてない。これは通常の出店戦略の逆ですから。だが、そこに「弱者の戦略」による勝つ秘訣があったと考え、勝手に書かせていただいたのですが、出店エリアを県北に絞っている理由はなんですか。



 岩田 県北エリアに留まり、そこをしっかり堅持してと、うまく書いていただいてましたが、県北だけに留まるつもりはなく、何度か他地域にも出店したんです。県南にも3店ぐらい出店したんですが、出店しては撤退の繰り返しで。
 この15年ぐらいはコンビニの攻勢が強まり防戦一方になりましたが、それでも20年ぐらいは県北で確実に拡大してきました。県北で出ていないのは新見(にいみ)ぐらいです。
 江見(美作市)の店も目の前にコンビニが出店(2017年2月)してきましたし、蒜山も昨年、1昨年とコンビニが2店出来ているような状態です。
 蒜山は過疎地は過疎地なんですが、岡山県では倉敷に次ぐ観光地で年間150万人ぐらいの集客があります。たしかに冬場は全くだめですが、春から秋は観光客が多いから、それを目当てにコンビニも出店してきたんです。
 江見こそ少子高齢化で過疎が進んでいる地ですが、実は母の出身地ということもあり出店したんです。いま店がある場所に昔、スーパーがありましてね。そこが撤退した跡地をなんとかしてくれないかと頼まれたんです。ほかに買い物をする場所がないということもあり、高齢者を中心に総菜を買ってもらい喜ばれていますね。


 田舎町(旧、作東町)にコンビニが2店も出店したこと自体、驚きだったが、よりによって「つるや」の前に2店目のコンビニがオープンした時は正直、大打撃を受けるだろうと思った。そこでコンビニのイートインコーナーでコーヒーを飲みながら「つるや」を、別の日は「つるや」の店内で食事をしながら客の入りを観察していた。
 当初の予測では「つるや」に入る客は激減するだろうと考えていた。ところが、現実は違っていた。「つるや」に来ていた客がコンビニに移った様子は見られなかった。「つるや」で総菜や弁当を買っていた客は相変わらず同店に行っていたし、それほど客を取られた風はなかった。地元の人に聞いてもコンビニと「つるや」は客が違うというか、店に対する捉え方が違っているようだった。「つるや」はどちらかというとスーパーに近い位置づけと言うと多少イメージできるだろうか。
 もちろん、コンビニのオープンが「つるや」に与えた影響はある。その一つが競争意識の芽生えである。それまでは商品棚や陳列がいかにも田舎の食料品店という感じだった。ところがコンビニのオープン以後、商品の陳列方法が明らかに変わった。
 まず商品棚の高さが低くなり、向こうが見えるようになった。商品を高く積み上げると客に圧迫感と同時に雑然とした印象を与えるが、それがなくなり客は商品を買いやすくなると同時に空間的な圧迫感からも開放され、商品を買いやすくなった。次にポップによる商品訴求を行いだした。
 こうしたことは競合が出来たことによるプラスの作用である。こうしたことを考えると多少の競争はあった方が店と消費者の双方にプラスに働くようだ。


顧客の要望、ニーズに応えて変化

 −−実は、私自身も帰省している時は総菜や弁当を買ったりしているんですが、イートインというか店内に食堂がある点がコンビニとは大きく違いますね。売り上げは食事関係の方が多いんですか。
 岩田 会社全体で見ると物販が7割、飲食が3割という比率ですね。
 −−運営方法は直営、フランチャイズ、あるいはその両方ですか。
 岩田 全店直営です。マニュアルとか契約条件とかを統一し、システマチックにやればいいんでしょうが、そういうことに私が向いていないというか、なかなかできないのが弁当、惣菜なんですね。
 いまは各店舗で作っていますが、昔は本社工場で一括して最終完成品の形まで作って各店舗に届けていたんです。ただ、そうするとコンビニと全く変わらなくなるので、お店で一から作る手作り弁当と、工場で半調理品にして配達し、店で最後に揚げたりして完成形にするものとに分けています。
 −−イートインコーナーは当初から備えていたわけではないんですね。
 岩田 お客さんの要望に応じていったわけです。最初は食べる所があるといいと言われ、テーブルとイスを作る。次には温かい味噌汁が欲しいと言われ、店内で作って出す。すると次はうどんが、カレーが欲しいと。そういうお客さんの声に応じていったら今のような形になったわけです。
                                             (2)に続く

PREMOA(プレモア)  


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