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破産企業を買い取り、再生させた社員達の物語(1)

(株)パラマ・テック 代表取締役 深水哲二 氏
福岡市東区多の津1−7−5 tel 092-623-0813

会社の破産を目の当たりにし、課長以下社員が立ち上がる。


 相次ぐ企業の破産ーー。できることなら企業を破産から守りたい。破産の道は辿りたくない。経営者なら誰もがそう思っているはず。だが、どうしても破産が避けられない時でも、破産に関する知識や情報があれば再生への道が開かれることもある。そこで本稿では、破産した企業の従業員が会社を再生し、優良ベンチャー企業に育て上げた例を紹介してみたい。
                              (ジャーナリスト 栗野 良)

役員は全員雲隠れ
残った社員で役職が
一番上だったのは課長

 東京本郷に医療機器分野ではよく知られたパラマという会社があった。主力商品は医療機関向けの自動血圧装置。シーメンスと特許競争をして勝利を収めたこともあるほどだから、同社の製品は優れており、国内では市場をほぼ独占していた。
 ちょうど土地バブルの頃、お決まりの土地投機に手を出したのはいいが、その後の地価下落で、一転、資金繰りが悪化しだした。
 歯車が1つ狂うとすべてが悪い方向に動き出すもので、それまで業績の上にあぐらをかいていたツケが回ってき、売り上げは減少。新商品の開発も怠ってきたから、徐々にシェアも他社に食われていった。
 そうなれば、ますます資金繰りは悪化し、しまいには市中金融にまで手を出さざるを得ない。やがて返済を迫る男達が会社に押し寄せてくる。そうなると社員も仕事どころではなくなってくる。
 落ち目になると寄ってくるのが自称コンサルタントを名乗るハゲタカ達で、彼らの見え透いた融資話に乗せられて切った2億円の手形がパクられ、社長以下役員達は全員雲隠れしてしまった。
 そうした本社の様子を案じていたのが福岡営業所の学術課長、深水哲二だった。「このままでは貴重な資料までが散逸してしまう。なんとかしなければ」。
 ところが、本社に行ってみると主立った役職の人間は雲隠れか、会社に見切りを付けていなくなっていた。それでも残っていた社員に声を掛け、「会社再興」に動き出したのだ。
 「俺たちの会社がこのまま消えていくのは残念でならない。もう1回、皆で一緒に仕事をしようじゃないか」
 そんな深水の呼び掛けに応えたのが、残った社員の半数、18人だった。

もう一度皆で一緒に
仕事をしよう、を
合い言葉に頑張る

 まず最初にしたのは裁判所へ破産手続をして、会社の資産を守ることだった。それでなくても得体の知れない男達が出入りして、借金の形と称して持ち出そうとしていたからだ。
 しかし、破産手続きはしたものの、代表者印もなくなっていたから離職表の発行ができない。離職表がないと失業保険がもらえないのだ。給与も未払いの上、失業保険までもらえないとなると悲惨というほかなかった。
 それでも破産管財人が決まり、再生へ向けての第1歩を踏み出すことができた。そう思った矢先に1通のファックスが流れてきた。「本日をもって全員解雇する」。文面にはそう書かれていた。「これには正直堪えた」。深水は当時を思い出し、しみじみとそう語る。「本当に自分達の会社が無くなってしまったのだ」。そう思うと、言いようのない悔しさと悲しさに全員が包まれてしまった。「このままで終わらせては絶対ダメだ。何が何でも、もう一度皆で一緒に仕事をしようじゃないか」。以来、この言葉が彼らの合い言葉になっていった。

ねばり強く交渉し、
破産会社の資産を
好条件で引き継ぐ

 「やろうじゃないか」と言っても、会社はおろか商品も資金もないのだ。深水は会社の残された資産をざっと見積もってみた。
 1.売掛金が約3億円
 2.商品在庫が約3〜4億円
 3.部品在庫が約1億円
合わせて7〜8億円の資産があることになる。そこで、これを元に破産管財人と交渉していった。
 深水の申し出はこうだった。
 1.売掛金の回収代行をするから手数料を欲しい。
 2.在庫品は売れなければ1文の値打ちもない。その代わりに我々が販売するから販売手数料を欲しい。
 3.その代わり、販売先へのメンテナンスは1年間我々が無料で行う。
 結局、従来の顧客と商品をそのまま譲り受けたいという申し出にほかならなかった。考えてみれば、在庫も持たないのだからノーリスクである。
 しかし、深水の申し出はそれだけに止まらなかった。なんと会社と工場まで破産管財人から借り受けたのだ。その結果、従来は事務所維持費として月額約300万円かかっていたものが、10分の1以下の月20万円で済むようになった。社員の自宅を営業所代わりにし、各人の奥さんが電話番。「洗濯物を干す間もコードレス電話を腰にぶら下げさせていた」と苦笑する。
 さらに、パラマの商標、商号、工業所有権などの買い取りを管財人に交渉した。
 「いくらで買い取るつもりにしているのかと言われたから、170万円しかないと答えたら、一笑に付されました。それはそうでしょう。相手の方とすれば無茶苦茶な話だと思いますよ。でも、それ以上は出したくても出す金がないんですから」
 一笑に付されはしたが、その後もねばり強く管財人と交渉し、結局、その金額で買い取ることに成功したのだった。虫がいい話である。ただ、まったくの異業種企業に売却するよりは以前の社員に売却するのだから、売掛金の回収にしてもスムーズにいくだろうし、メンテナンスもしてくれるのだから安心ではある。
                                               (2)に続く

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