2025年、2030年の社会は?〜流通小売り編(2)
〜生き残るのは人的サービス


実店舗は消え、買い物はネットで

 昨年10月の消費税値上げを機に閉鎖した小売店舗が増えているが、この動きは今後も続くのか、それとも一時的なもので終わるのか。
 卑近な例で恐縮だが、福岡市南区の農家レストラン「木の花ガルデン」が9月20日をもって閉店した。
 「木の花ガルデン」と言っても九州以外の人にはピンとこないだろうが、「梅、栗植えてハワイに行こう」というキャッチフレーズで知られる大分県大山町農協が「農家もてなし料理バイキング」を謳うレストランで、大分県内の2か所と福岡市南区に展開している。大山村(現大山町)は当時の大分県知事、故平松守彦氏が地域活性化を目的に「一村一品運動」を提唱したモデルになったことでも知られ、当時、全村民がパスポートを所持していることでも有名だった。
 福岡市南区のレストラン店舗閉鎖は建物の老朽化のためというのが理由だが、消費税値上げと無関係ではないだろう。

 このように消費税値上げを機に郊外や地方で店舗の閉店、撤退が相次いでいる。それらの多くは中小小売り店舗だが、なかには全国チェーンの中型店、ファストファッションの路面店などの撤退も相次いでいる。
 こうした店舗の閉鎖要因はネットショップとの競争に敗れたからで、要因は固定費、なかでも賃料負担で、家賃が高い都心部の店舗ほど苦しくなり撤退、閉鎖が相次いでいる。もはや商店街と名の付くものはどこを探してもない。

 すでに日本より早くアメリカや、成長目覚ましい中国でさえも実店舗の閉鎖が2010年代後半から起きている。もはや先進国でこの流れを止めるのは不可能に近い。それどころか今や競争はネットショップと実店舗ではなく、ネットショップ同士、なかでも日本では「アマゾン」と「楽天市場」が食うか食われるかの競争を繰り広げていたが、2025年には「楽天市場」が「アマゾン」にかなり溝を開けられている。よほどの起死回生策か敵失でもない限り逆転は望めそうもないだろう。

 地方で目立っていた「シャッター通り」は地方都市でさらに加速し、2030年には大都市も例外ではなく、全国あまねく空き店舗だらけになっているだろう。
 ネットで買い物をするのが当たり前になっているから昼間でも通りを歩く人の姿を見かけることはほとんどない。見かけるのは配達車と介護サービスの車と救急、消防車ぐらい。

生き残るのは人的サービス

 といっても商店がすべて消えるわけではない。ネット全盛時代でもしっかり生き残っている店舗もある。生鮮食品系のスーパー? いやいやスーパーも2030年にはネット注文で即日配達システムに代わっており、かつてあった店舗は加工配送所になっている。足腰が弱り重い荷物を持ち歩けない高齢者ほどこうした注文システムを活用しているし、利用者はタブレット等の小型端末か注文専用端末を当然のように使いこなしているだろう。

 では残っている店舗などないではないか、と思われそうだが、そんな時代でもしっかり生き残っている店がある。その代表的な存在が家電修理屋さんだ。
 私が住んでいる地区にいまでも頑張っている電器店がある。店の名前は仮にP店としておこう。看板には「パナソニックの店」と表示されている。
 ある程度の年齢の人なら、この名前を聞いて思い出すのは松下電器が全国に展開した「ナショナルショップ」だろう。
 当時、各家電メーカーは自社の名前を冠した〇〇ショップを競って展開していたが、松下電器商品を扱う「ナショナルショップ」の結束が最も強かった。その後、量販店、大型家電店が力を付けて行くにつれ、家電メーカーの系列ショップは次々と姿を消したり、「エディオン」等の系列店に衣替えし、看板を付け替えていったが、「パナソニックの店」は2019年段階で全国にまだ15,000店存在している。

 P店もその中の1つだが、隣に「ミスターマックス」の店舗がある。同社が福岡市で最初に出した店で、当時本社もそこにあった。同店はいまでこそ幅広い商品を扱っているが、スタートは電器店で取り扱い商品の中心は家電品だった。
 隣に売り場面積の大きい競合店ができれば客はそちらに流れ、店舗面積でも品揃えでも劣る小さな店は成り立たなくなり、程なく閉店というパターンが多いが、P店はその場所で50年も営業を続けている。それも細々と生き残っているのではなく、別の場所に支店もある。

 この店の有り様に1つのヒントがある。住宅街で同店の営業車(軽自動車)をよく見かけるのだ。営業車が住宅地を動いているということは顧客の所に出向いているわけで、商品を運んでいることもあるだろうが、すべてをチェックして見ていたわけではないが、大方は荷物を運んでいるのではないようだ。察するに御用聞き、というか顧客の要望に応じて出かけているのだろう。
 高齢者が家電製品を買い替えるパターンはあまりないだろう。TVが映らなくなると中年以下世代なら新しいものへの買い替えを考えるだろうが、高齢者はまず修理することを考える。「もったいない」精神もあるし、2025年ー2030年は今以上に環境問題に対する意識、取り組みが高まっており、若い世代も次から次に新製品を買うのではなく、1つの製品を使い続けることが美徳、かっこいい、クールという意識が高まっているから、一時期、効率優先でメンテナンス部門を縮小、撤廃したメーカーも再びメンテナンス部門に力を入れている。

 「販売はネットで、メンテナンスは顧客の近くで」というのがメーカーの方針になり、かつての販売店網の代わりにメンテナンス網をいかに展開し、顧客の要望に応じていくかが主要課題になっている。どんなに機械化され、AIが進んでもメンテナンスは結局人手に頼る部分が大きく、人に残された最後の職場になっているかもしれない。


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