デル株式会社

 


 多発するあおり運転とカーフェイスの関係(2)
〜オラオラ顔が売れる


オラオラ顔が売れる

 「オラオラ顔」の車に気付いたのはそういう中でだった。こんな顔をした車が後ろから迫ってくると気持ちが悪いが、「オラオラ顔」をしたミニバンの方がよく売れているらしい。かつてはミニバンの代名詞にもなる程よく売れたホンダのオデッセイはトヨタのアルファード・ヴェルファイアに売り上げ台数で大きく差を付けられている。それにはトヨタ系のミニバンが「オラオラ顔」に変わってからだという指摘がある。
 例えばトヨタのレクサスは2012年にマジンガーZを想起させるようなカーフェイスにデザイン変更した。「スピンドルグリル」(スピンドルは紡績機の糸を巻き取る紡錘のこと)というそうだが、このフェイスにして以来、4年連続で世界販売台数を伸ばしている。どうやら「オラオラ顔」は世界的な傾向のようだ。

 もちろんデザインだけで車が売れるはずはないだろうが、売れ行きにデザインが大きく関係しているのは他の商品同様に事実だ。
 商品は市場に初めて登場した頃は機能で売れ、しばらく機能競争が続くが、成熟段階に入るとデザインが優先される。それには付加すべき目新しい新機能がなくなり、機能面ではどこもかしこも似たような商品になるからだ。すると差別化できるのはデザインだけになる。
 ユーザーの方も、どうせ機能は似たようなものだしとか、使わない機能がいっぱい付いていてもとか、似たり寄ったりの機能ならカワイイデザイン、他人に自慢できるデザインのものがいいと考え、そちらを選ぶようになるのはスマートフォンなどでもよく見られる現象だ。

 商品デザインは時代の空気を反映している! 例えばバブル経済期には男も女も逆三角形のような、肩幅が張った洋服を着て闊歩していた。肩を怒らせ、肩で風を切って歩くようなファッションに身を包み、女性は眉を濃くし、仕事ができそうなデザイン、派手目の化粧が流行ったものだ。そう、中身を二の次にして。
 その流れは少し形を変えながら今も続いている。ノウハウ本が流行り、街を歩いても乗り物に乗っても鏡を取り出し、自分の顔を眺め髪形を気にする若者達。彼らが見ているのは自分自身で、自分以外の者は目に入らない。
 要は自己中心主義で、すべての規範が自分にとって心地いいかどうかで決まっている。「ジコチュー」という言葉が流行ったのも納得で、そうした傾向はますます広がり強くなっている。
 「自己愛」が選ぶモノは内に対してはカワイイモノであり、外に対しては自分を強く見せられるモノである。外壁を高くして虚勢を張り、攻撃こそ最大の防御とばかりに外部に対して常に怒っている。

付加より「省く」技術を

 車はかつての移動手段から、今や自分の家、自分を心地よく守る存在に変わってきた。内に対して快適であるためにインテリアやオーディオシステムに凝り、車の中に自分の世界(部屋)を作ろうとする。それは外部に対して閉ざされた、自分だけの世界だ。
 それを助長しているのが作り手(売り手)で、彼らは付加価値、グレードと称して車をどんどんルーム化していく。

 一方、外に対して守るために車は鎧兜や戦車の役目を果たすことが求められる。かくして車はコンパクトと反対方向に動いていく。軽自動車がどんどん大型化していくのは、こうした流れをとらえているからだ。それでもまだ軽自動車は鎧兜や戦車ではなく、ハウスの役目の方が重視されている。
 もう一方の普通自動車やミニバンは外に対する打ち出しの方が重視され、目をつり上げた怒り顔やオラオラ顔が好まれるようになる。

 こうした車に乗れば鎧兜に身を固め、戦車に乗っているような気分になるのは心理学的に起こりえる。器と中身が互いに影響を与え合う相関関係はよく知られている。かくして、あおり運転は起きるし、なくならない。
 本当にあおり運転や事故を減らしたいなら車メーカーはデザインを考え直すべきではないか。屋上屋を重ねる技術は「付加ではなく負荷」が増えると認識すべきだと考えるが、経済優先の発想からは「省く技術」的発想は生まれない。今必要なのは機能を付加することではなく、省くことではないだろうか。

 システムは複雑になればなるほど事故を防ぐどころか逆に大惨事を招く。「Simple is best」。それをある部分で証明する動きが今年、アメリカ海軍で起きている。1年前、駆逐艦に装備されたタッチスクリーン式のインターフェースを廃止し、従来の機械式コントロールに戻したのである。
 きっかけは10人の水兵が亡くなった海上衝突事故。操作に不慣れだった乗員がいたことことが原因と事故調査報告書で述べられているが、操作が複雑になればとっさの操作が出来にくくなることの証左である。
 最近やたら報道される「踏み間違え事故」も新たな技術を付加することではなく、「省く技術」、もっと機械的な操作に戻すことで解決できる部分が多いと思うが、経済優先のカーメーカーがそちらにハンドルを切る動きがなさそうなのが残念だ。


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