ココチモ

 


この国は、まだ捨てたものではないかも・・・


 この国は、まだ捨てたものではないかもしれない−−。ごく最近、そう思いだした。実のところ、この国の未来や人類の未来に対して、私は悲観的だった。
 20世紀はまだ未来に対し多少なりとも明るい希望(それは幻想だったが)を持てた時代だったが、21世紀に入ると世界は明らかに逆の方向に動きだした。暴力が横行し、文明は破壊され、人の心は荒(すさ)み、国も政治家も皆内向きになり、異なる社会や他者への理解と思い遣りはなくなってしまった。

 このような状況下で未来に楽観的になれと言う方がおかしいと思うが、この頃、人の世もまんざら捨てたものではないかもしれないと思い直している。
 きっかけはいくつかあるが、1つは災害時のボランティア。こう言えば「スーパーボランティア」と呼ばれている尾畠春夫さんを思い浮かべる人が多いかもしれない。もちろん尾畠さんの活動には頭が下がるが、希望を見出したのはボランティアに多くの若者が参加していることだ。
 個とマスを一緒にすべきではないが、「ジコチュー」と呼ばれ、自分中心と思われていた世代の若者達が多く駆け付けたのが阪神・淡路大震災のボランティア活動。この国の大規模なボランティア活動はこの時が幕開けと言っていいだろう。

 それからしばらく年数が経つが、東北大震災、熊本地震、西日本豪雨などが次々に列島を襲ったが、その度にボランティアの人達が被災地に駆け付けている。
 西日本豪雨の時は被災地域が広範囲に及んだためボランティアは集まりにくいのではないかと心配したが、被災自治体によれば被災地全体で予想より多くのボランティアが参加したとのことだった。
 これは社会の未来に対する一筋の光明だろう。この国はまだ捨てたものではなさそうだ。

 もう一つは「寄付の文化」である。経済格差が顕著な社会には「寄付の文化」が存在するものだが、この国にはそうした「文化」は存在してないように見えた。あるのはむしろその逆で、金持ちは儲けることにのみ執着し、富の分配には無関心で、金は自らが贅を尽くすためにあると考えているように見えた。

 しかし、ここに来て、といってもこの1、2年のことだが、数億円をポンと寄付する人が相次いだのだ。
 以下に列挙してみる。

・2016年12月 京都市の男性が青森市に5億円を寄付。
・2017年 愛知県豊橋市の女性が「東日本大震災の被災地の子供のために使って欲しい」と1億3000万円余りを寄付。
・2017年12月 青森市の男性が青森市に20億円を寄付。
・2018年6月 福岡市の男性(80歳)が九州大学に5億円余りを寄付。
・2018年6月 福岡市の同じ男性が総合せき損センター(福岡県)に1億円を寄付。

 私が知り得た情報だけでこれだけ存在する。1億円未満の寄付まで入れれば、もっと多くなりそうだ。
 これらの事実から、日本の金持ち層も「寄付の文化」を身に付けてきた、と考えるのは早計だろう。というのも、ここに挙げた人達は持てる財産の一部を寄付したわけではなく、コツコツ働いて貯めた中から全財産か、もしくは自分達が生活できるだけの金額を残し、残りの全てを寄付しているのである。
 この辺りはボランティアに残りの人生を捧げている尾畠さんと共通する部分、「社会への恩返し」という思いがあるように感じる。

 「寄付の文化」という意味では主体はもう少し若い現役世代か、それに近い層に期待したいが、残念ながらこの国の現役経営者達はあまりそのことに熱心でないように感じる。彼らが熱心なのは富の分配ではなく、富の集中の方らしい。
 持たざる者が身銭切ってでも寄付するのは助けられたり、人の情を受けた経験があるからで、それが「お互い様」「恩返し」という言葉になって表れる。対して、持てる者は自分の力でのし上がってきているという思いが強いから「助け合い」という感覚はそもそもない。あるのは「自己責任」という言葉だろう。

 それにしても疑問に感じるのは「チャリティー」と題して毎年、ショーを行うTV番組だ。「チャリティー」を謳いながら出演者に多額の出演料を支払っているTV局。それを何の疑問もなく受け取っている出演者。どこがチャリティーなのか全く分からない。彼らはチャリティーの意味を知っているのだろうか。自分達だけギャラをしっかりもらい、視聴者から寄付を集めることがチャリティーとでも思っているのだろうか。
 こういう番組を見ると、この国に「寄付の文化」は存在しないし、根付かないだろうと悲観的にならざるをえない。

 それでも、大災害の度に現地に駆け付けボランティア活動をする若者が後を絶たなかったり、寄付をする人が現れると、この国はまだ捨てたものではないかもしれないと思ったりもする。
 この国はどこへ行くのか。私達はこの国の未来に希望の光を照らすことができるのだろうか−−。


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