「チェキ」に売り上げで負けたニコン(2)


 ニコンの核になっていたもう1つの層がプロカメラマンである。ニコンもその層を重視し、プロ向け製品を作って来た。プロカメラマンは価格ではなく性能重視だから高価格でも購入する。メーカーにしてみれば値引きしなくても売れるわけだから利益率が高い。といってその層だけを対象にしていたのでは、いくら利益率が高くても数が出なければ総額利益は上がらないし、市場が一定してしまう。それも大きな市場で一定するならいいが、小さな市場で一定し、拡大が望めないのでは経営的に厳しくなるのは目に見えている。
 にもかかわらずニコンは販売面でプロカメラマン層に依存し過ぎた。それがミラーレスへの参入の遅れにも繋がった。

 一方、キヤノンは比較的早目にミラーレス市場に参入したため、スポーツカメラマンを除けばプロの間で利用者が増えて行ったし、家電メーカーと揶揄されたソニーは早くからミラーレスに絞り開発を続けてきたため、プロカメラマンの間でもソニーのミラーレスカメラを使う人が増え、気が付いた時にはニコンの主要ユーザーであるプロカメラマン市場もキヤノン、ソニーに奪われていた。

 では、ニコンはキヤノン、ソニーの後塵を拝し3番手に成り下がったのかと思うと、現実はさらに酷かった。なんと富士フィルムの売り上げにも負けたのだ。まさかカメラで富士フィルムに負けるとは思わなかったが。
 それも富士フィルムのカメラ関係トータルの売り上げに負けたのではなく、コンシューマーイメージング分野という富士フィルムの1分野の売り上げに負けたのだから、いかにニコンの売り上げが低いのかが分かるし、この結果に驚く。

 富士フィルムのコンシューマーイメージング分野はインスタントカメラの「チェキ」を中心とした分野である。つまりニコンのカメラを中心とした映像事業は富士フィルムの「チェキ」の売り上げに負けたのだ。これをどう捉えるか。「チェキ」がそれぐらい売れていると捉えるか、ニコンの危機と捉えるか。もちろん両方だろう。
 因みに2022年上期(4月〜9月)における両者の売上高は以下の通り
富士フィルム
・イメージング部門全体
  1,834億円(前年同期比351億円増)
・コンシューマーイメージング(チェキや印画紙など)
  1,191億円 (前年同期比251億円増)
・プロフェッショナルイメージング(Xシリーズなどのカメラ)
  643億円 (前年同期比100億円増)
ニコン
 映像事業の売上高 1,145億円

 ニコン映像事業の売上高は「チェキ」を下回っているのが分かると思う。ここまでニコンのニコンの売り上げが悪いと、「ニコンは大丈夫か」と思ってしまう。
 もちろん同社もこうした現状に手を拱いているだけではないが、その手がハイアマチュア、プロを対象にした中高級機に開発の重点を移し、エントリー機の開発・生産から手を引く(正式発表はしていないが)というもので、「この道は昔通った道」という既視感を覚える。
 コンデジが携帯電話に市場を奪われ、売れなくなった時に各社がコンデジ市場から撤退したり、高級機に生産を絞った時と同じやり方だ。

 たしかにカメラ市場の縮小は続いているが、一方のキヤノンは今年もエントリー機を投入したし、今後も開発を続けると言っている。カメラに親しむ入り口を閉ざして、いきなり高級機を買わせることはできないだろうし、エントリー機から撤退するということはカメラで撮る写真人口の裾野を狭めることにもなる。それともエントリー機は他社製で楽しみ、ステップアップ時にはニコンをと勧めるつもりなのだろうか。
 この思惑が上手くいくとはとても思えない。メーカーごとに操作性が異なるからエントリー機に慣れ親しむと中高級機にステップアップする際にも同じメーカーの機種を選ぶ人が圧倒的に多いからだ。
 さらにニコンにとっての悪材料はキヤノンや富士フィルム、ソニーと異なり他に収益事業を持たないカメラ専業メーカーということだ。正確にいえば他の事業も手掛け、それらを第2第3の柱にしようとしているが未だ育ってなく、相変わらずカメラを中心にした映像事業に会社そのものが頼っていることだ。
 しかも次の柱が育つまで時代は待ってくれそうにないから、このままジリ貧状態が続けばニコンに未来はない−−。


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