デル株式会社

 


 ニコンが消える日〜海外2000人削減でも生き残れない(2)
一眼レフ重視が失敗を招いた


一眼レフ重視が失敗を招いた

 問題はカメラ市場の捉え方である。1つはマクロ的視点。全体としてのカメラ市場をどう見るのか。市場は縮小するのか、それとも拡大しないまでも現状維持を保つか、多少縮小するにしても緩やかな下降線なのか。

 もう1つはミラーレス市場をどう見るのか。3つ目は新興勢力のソニーに対する備えである。

 ニコンは(キャノンも)ここが甘かった。ニコンの肩を持つわけではないが、それはある意味仕方ない。業界トップ企業がいち早く市場から抜けることは許されない。それをすれば自社のことしか考えずユーザーを切り捨てた企業と罵られ顧客が離れていくのは目に見えている。だからこそ業界トップ企業の決断は遅れるわけで、コダックがそうだったようにニコンも分かっていながら非情になれなかったということだろう。
 その点、二番手、三番手以下の企業は気軽で、ドライに顧客と過去の資産を切って捨てることもできる。いわゆる市場からの撤退である。

 ニコンの戦略ミスは2と3。ミラーレス市場とソニーに対する見方、備えを怠ったことだろう。
 ただソニーに対する見方に関しては私も同様で、ひとりニコンを責めるわけにはいかないが、ソニーがミノルタの資産を受け継いだとはいえ所詮は電気屋、カメラ市場で対等に戦える相手ではないという思いは強かったに違いない。
 事実、ミノルタのカメラ事業を引き継いだとはいうものの、その効果は一向に現れなかったばかりか、カメラの心臓部たるセンサーをアップルに提供するなど、ソニーは自らの首を絞めているとしか思えなかった。実際、この頃ソニーは低迷し、ソニー危機さえ叫ばれていたのだから。
 対するニコンはカメラのセンサーを一部自社生産していたこともあり、なおのことソニー何するものぞという思いが強くあったかもしれない。
 しかし、センサーを握っていたソニーは他社製スマートフォンに供給するだけでなく、自社のデジタル一眼カメラやミラーレスカメラに積極的に搭載していき、気が付いた時にはミラーレス市場、特にフルサイズのミラーレスはソニーに完全に牛耳られていた。

 ソニーのミラーレスカメラ市場重視の戦略に対し、ニコン、キャノンの戦略は相変わらず一眼レフ市場重視で、ミラーレスカメラを一段低く見ていた。というのは最大市場のアメリカで売れているのは一眼レフであり、小さなミラーレスカメラは欧米人には好まれない、というのが当時の捉え方だった。
 欧米市場の売れ行きを見る限り圧倒的に一眼レフだったから、これは市場を見誤ったわけでもマーケティングを必ずしも誤ったわけでもない。強いて言えば半導体の時と同じ轍を踏んだ、先を見通すマクロの視点に欠けていたということだろう。

 80年代に日本が半導体で世界を席巻していた時に「日本人は手先が器用だから」という手先器用論が経済人の間でまことしやかに話されていたが、同じことがカメラでも言われた。手が大きい欧米人はミラーレスの小さなボディは好まない、と。
 まあニコンの連中が心からそう思っていたかどうかは別にして、そうでも解釈しないと理由付けできないほど欧米ではミラーレスカメラが売れなかったのは事実だ。
 ただ、それは欧米人の買い替えサイクルが日本人のように新製品が出る度に買い替えるような短サイクルではなく、もっと長かったためである。要は市場の立ち上がりが予想以上に遅かったため、欧米でのミラーレスマーケットを見誤ったのだ。
 もう1つは、市場の立ち上がりが遅れた分、一度立ち上がると急速に拡大し、キャノン、ニコンは後れを取った上に、本気度を疑うような、言い換えれば様子見程度の参入で、特にニコンのミラーレス参入はキャノンにも後れを取った。
                                            (3)に続く



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