崩壊するニッポン(5)
「公共」が消えて行く(2)〜「公共」が人質にされる


「昼休み」を導入する金融機関

 金融機関に至っては地方の支店をどんどん格下げして出張所にし、無人のATMだけにしたかと思えば、今度はATMの削減、撤退へと動き出している。ATMはコンビニエンスストアに任せようというのだ。
 そして2017年から金融業界が進めているのが「昼休み」の導入である。「昼休み」と言っても行員が取る昼休憩時間のことではない。金融機関の窓口を閉めてしまう、昼閉店のことだ。
 昼時間に銀行などの窓口を閉められたら勤め人は困るではないかと思うが、ATMがあるし、「昼閉店」時間は11時30分〜12時30分までというように、少しずらしてできるだけ影響がないようにすると言う。実はこの動き、地銀を中心にかなり広まりつつある。
 金融機関は昔から自己都合ばかりでユーザー視点がまったくない。「昼休み」を取るなら閉店時間を1時間延ばせと言いたくなるが、そういう声はほとんど聞かない。

「公共」が人質にされる

 気になるのは「公共」の概念喪失ではない。いや、それももちろんあるが、それ以上に気になるのは「公共」を人質に取るやり方だ。その最も懸念する動きが昨年、岡山市で起きた。
 岡山市周辺都市の公共交通事情は福岡市周辺と似たところがある。福岡市は70年代前半ぐらいまでは「西鉄市」と揶揄されるぐらいに西日本鉄道グループが幅を利かせていた。岡山の両備グループが地元でどう揶揄されていたのかは知らないが、公共交通を一手に握ることで権力を誇ってきたのは間違いないだろう。

 福岡における西鉄グループと岡山における両備グループの違いは両都市力の違いが第一だが、西鉄グループが福岡都市圏の交通網をほぼ独占しているのに対し、岡山都市圏はバスに限ってみても両備バスのほかに下電バス、宇野バスなど6社が岡山駅前に乗り入れるなど競合している。
 そういう意味では岡山の方が健全な競争関係にあるといえる。ただ、競争も行き過ぎると消耗戦から共倒れになることもあるので、一概に競争が善、競争がすべてとばかりも言えないのが難しいところだ。

 

 そして昨冬、市場に大きな変化が起きた。八晃運輸(岡山市)が岡山市中心部と岡山市東区西大寺地区を結ぶ「益野線」を新規開設すべき中国運輸局に申請した。すると、すでに同路線にバスを走らせていた両備グループが激怒し、2018年2月8日付けで「路線バス8路線のうち、赤字幅の大きい31路線について廃止届を中国運輸局に提出した」と発表したのだ。
 路線廃止で影響を受けるのは、それら「赤字路線」を利用している利用者達で、両備グループの両備バス約4000人/1日、岡電バス約1500人/1日が影響を受けることになる。しかも路線廃止を2018年9月末と翌年3月末に一斉に行うと発表したから驚く。弱者切り捨てである。
 たしかに赤字路線の廃止というのは時折見聞きするが、その場合でも1路線か2路線で、今回のように31路線をいきなり、一気に廃止というのは聞いたことがない。それも、廃止届を「これから提出する」ではなく、すでに「提出した」と言うのだから暴挙。大手企業の横暴と言われても仕方ない。

 両備グループといえばいままで他社や他県の赤字会社を引き受け、再生してきた実績もある企業で、公共交通の使命も十分認識している企業と思っていたし、そう思われていたはずだ。
 それがなぜ、いきなり、こういう手段に出たのか。これでは横暴を通り越し、「公共」を人質にした「恫喝」という誹(そしり)りも免れない。

 両備グループの言い分もあるだろうが、その前に新路線を開設した八晃運輸について見てみよう。
 同社の母体はタクシー事業で、バス事業に参入したのは2012年。岡山市中心部を走る循環バスの運行を開始した。バスの名称は「八晃バス」とか「八晃運輸バス」ではなく「めぐりん」。この名称は覚えやすいし、グリーンで統一した車体も好感が持てる。料金はエリア内単一料金で100円。その後、循環エリアを少し拡大し、現在では190円、250円単一料金区間もできている。
 運賃が1コインの「100円バス」は全国各地で見られるが、都心循環エリア100円バスは福岡市の西鉄バス(1999年7月1日から導入)が全国的にもよく知られている。「めぐりん」はその岡山版と言ってもいいだろう。                      (3)に続く

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