大型店に流れる消費者を、地元小店舗に呼び戻すには(4)
〜効率販売から非効率販売へ〜


効率販売から非効率販売へ

 客が来るのを待つ販売から、客が待っている場所まで出かけていく販売へ−−。急速に進む高齢化は小売業のあり方まで大きく変えようとしている。「大きいことはいいことだ」路線をひた走るイオンを始めとする全国大手流通業を尻目に、コンパクトで小回りがきく小売業路線を一歩進めているのがコンビニエンス各社だ。きっかけは2011年3月11日に東北地方を襲った大震災とその後の大津波。この時、コンビニ店舗も被災したが、いち早く移動車での販売を開始した。
 移動販売自体は新しいものでもコンビニの専売特許でもない。昔からあった販売形態だし、車を使った移動販売はいまでもいろんな分野や場所で見かける。ただ、組織的、戦略的に開始したのはコンビニが最初だろう。

 現代の小売業は大量販売・大量消費を前提に成り立っているから大量消費がなくなった過疎地域からは順次小売店が消えていき、商店・商業施設の空洞化が急速に進んでいる。
 この空洞化は都市部と地方の両方で進んでいるが、比較的対応しやすいのは都市部の空洞化、いわゆる買い物弱者対策だろう。地方は過疎化+高齢化なのに対し、都市部は少なくとも高齢化が中心で過疎ではないから、2トン車や4トン車に商品を積んで団地などに行けば売れる。あながち成り立たない商売ではないだろう。
 だが、都市部郊外や地方では同じようにはいかない。まず大型車を駐める場所の問題もあるが、従来の小売りの考え方を180度変える必要がある。効率販売から非効率販売へ。大量販売から少量販売へ、と。

 こうした販売方法は商業ベースでは難しいから非営利法人(NPO)で行うべきだというのが私の考え(2010年11月01日配信の「栗野的視点No.363:グローバルとローカル〜飽和時代の商品欠乏化」)だったが、2011年3月11日に東北地方を襲った大震災以後、コンビニ各社が移動販売に乗り出したのを見て考えを改めた。案外、商売としても成り立つかもしれないと。
 元々日本人はコンパクトにすることに長けている。音楽プレイヤーでもホテルでも車でも、外国人が舌を巻くほどコンパクトでありながら十分な機能を備え、快適なものを作り出してきた。コンビニ店舗もその一つである。そのノウハウをなにも固定店舗にだけ留めておく必要はない。むしろ移動販売車にこそ生かせるのではないか。

 いままでも移動販売車はあったし、地方はそのお陰で随分助かってもきた。しかし、移動販売車も徐々に廃れて行き、それを必要とする地方でほとんど見かけなくなった。理由は簡単だ。商売として成り立たないからだ。
 問題はなぜ成り立たないのか、だ。
 1つには単品商売中心という点が挙げられる。魚を売りに来る車は魚介類だけで、肉類は扱ってない。しかも、魚は1匹売りが中心で刺し身の1人前売りはない。
 要は消費者側の視点で品揃え、販売をしているのではなく、販売側の視点での商品提供なのだ。
 高齢者はほとんどが1人〜2人世帯。そこに3人、4人前用の量は要らない。1人前の量なら買うが、それ以上の量はその日に食べ切れないから、翌日、あるいは数度に分けて食べることになる。これでは食の楽しみがない。だから段々買わなくなる。
 販売側も売れないところには声をかけなくなるから、段々寄らなくなる。こうした悪循環で移動販売そのものがその地域から消えていく。
 対してコンビニは当初から個人客を対象に販売してきており、店舗を含めコンパクトにできている。高齢者の買い物支援はコンパクトで小回りがきくことが最重要だ。

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