パラダイムは変わるか〜我々富裕層から税金をもっと取れと主張(2)
〜「株主第一主義」との決別


 さて、時をほぼ同じくする同年8月15日、アメリカのニューヨークタイムズ紙に大富豪で投資家としてよく知られているウォーレン・バフェット氏が「米政府は富裕層にもっと税金を課すべきだ」という論説を発表している。
「貧困、中間層がアフガニスタンで戦い、大半の米国人がやりくりに苦しんでいるというのに、われわれ超富裕層には巨額の減税が続けられている」
 バフェット氏によれば2010年に氏が支払った所得税、給与税などの連邦税は693万8744ドル(約7億4800万円)で、「高額に聞こえるかもしれないが、課税所得の17.4%」にすぎないと言う。中間層には最大25%の所得税を課せられているが、自分達は「富裕層にやさしい議会によってもう十分に甘やかされてきた」。
「富裕層の税率が現在より高かった1980〜2000年には4000万件の雇用が創出されたのに対し、富裕層減税の導入後は雇用創出数も減少した」
「年収1000万(約10億7800万円)ドルを超える層にはさらに高い税率を適用すべきだ」

 これに気を強くしたかどうかは定かではないが、その2か月後、オバマ大統領(当時)は「最も裕福な国民に応分の税金を支払ってもらう」とホワイトハウスで演説し、富裕層や石油・天然ガス会社などへの税優遇措置の廃止を提案した。
 ただ、それが実現することはなかった。反対の声を大にするのはいつの時代でも保守派で、その代弁者たるトランプ氏がオバマ氏に代わって大統領になると、彼はオバマ政策をことごとく引っ繰り返し、増税ではなく減税をすことに執念を燃やしているトランプ大統領が、そんなことを実施するはずもなかったが。

「株主第一主義」との決別

 ジョージ・ソロス氏ら米の大富豪18人連名の「2020年大統領候補への公開書簡」に触発されたわけではないだろうが、社会の潮目が変わってきたと感じたアメリカ最大の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は「公開書簡」から遅れること2か月後の8月、彼らが信奉してきたアメリカ型のキャピタリズム(資本主義)を一部、脱ぎ捨てることを宣言した。「脱・株主第一主義」を宣言したのだ。

 アメリカ型資本主義に主導された企業の主目的は株主の利益を追求することだった。しかし、今後は利益を生むこととともに、社会的責任を果たすことにも注力すると企業の目的を変えた(本来に戻した)のだ。
 企業の目的を「アメリカ全国民を助ける経済」を推進するためと再定義した宣言には180人以上の企業トップが賛同・署名している。
 そして今後は最低賃金の見直し、従業員の再教育、再訓練の強化など待遇面の見直しを行ったり、環境対策にも取り組む方針というから、これを機にパラダイムが本当に変化する可能性がある。
 彼らが次に行うことは自らの報酬の見直しである。そこまで行ってはじめて、彼らの声明が本物と認められるだろう。

 さて、アメリカの後追いばかり行っている日本の経営者はこの動きに追随するだろうか。それともあれは海の向こうのことと我関せずの態度を取るか。いたずらに1億円をばらまくようなことではなく、真に社会に役立つことをしたらどうかと思うが、そんな声が届くかどうか。
 いずれにしろパラダイムの変化が起きつつあることだけは確かなようだ。
                                          2019.9.27

デル株式会社


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