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TPPを考える場合に重要な視点(4)
〜デフレ下の自由貿易はマイナス


8.食料自給率の低下は国の形も変える

 今度は目を国内に転じてみよう。
気になったのが、TPPに参加すれば海外から安い農産物が輸入され、物価が○○円下がる(商品毎に具体的な数字が示されていた)という報道をTVなどで行なっていたことだ。
 これは消費者サイドに立てば輸入価格が下がるからTPPへの参加は「善」で、それに反対している農家は「悪」というメッセージを意図的かどうかは別にして発信している。
 果たしてそうか。

 まず危険なのは、食料の自給率が下がると食料の価格決定権を外国に握られるということだ。
1、2年前のバイオ燃料ブームの時、トウモロコシや小麦の輸入価格が急騰し、食糧難に陥った国があったことをニュースなどの報道で見た人もいるだろう。もっとはっきり言えば餓死者が出ているのだ。
 なぜ、そんなことが起きるのか。
安いアメリカ産農産物の輸入で国内農産物が壊滅的打撃を受けた結果、食料(とりわけ主食とする農産物)の自給率が激減し、輸入農産物に頼る体制ができてしまったからだ。そこに輸入価格の急騰が襲ったというわけである。
 結果は容易に想像できるだろう。日本に例えれば輸入小麦価格が急騰したため、パン食を米食に変えようとしたが、その時は既に米作農家がほとんど消滅していてコメも食べられなくなったようなものだ。
 そうなると選択肢は2つしかない。高騰した価格でも我慢して買うか、買えずに餓死するか。これは極論ではない。つい1、2年前にアフリカ諸国で実際に起きたことだ。

 やっかいなのは最近、世界各地で天候異変による自然大災害が発生していることだ。現代のように科学が進歩した社会でも、第一次産業は自然環境に大きく左右される。しかも悪いことに、自然災害の規模と深刻度は近年大きくなるばかりだ。
 つまり、農水産業は大規模かつ深刻な影響をいつ受けるか分からないリスクを背負っているのだ。

 ところで、食料自給率40%(カロリーベース)の日本市場は閉鎖的な市場だろうか。自給率40%ということは、60%の食料は外国から輸入しているということである。40%と60%、どちらが多いかということは小学生でも分かる。
「開国か鎖国か」と政府は言うが、半数以上の食料を輸入していても「鎖国」になるのだろうか。私には理解できない論理である。

9.デフレ下の自由貿易はマイナス

 最後に自由貿易が国の経済に与える影響を考えてみよう。
日本経済はもう10年以上もデフレの中にある。物価は下がり続け、労働者の給与は一向に上がっていない。会社の利益は増えているのに、それに大きく貢献している社員の給与が上がらないのは問題だと思うが、とにもかくにも定期昇給などもう何年もないのが現実である。

 不条理に対して何故怒らない、と言いたいが、そのことは別にして、自由貿易で関税を下げればどうなる?
 輸入物価は下がるだろう。輸入物価が下がるということは外国から安い商品が入ってくるということである。
 外国から安い商品が入ってくれば競合する国内製品は競争上、価格を下げざるをえない。もちろん全メーカーがそうではないだろうが、大半のメーカーは市場競争力の面から価格を下げざるをえないだろう。あるいは市場競争に負けて淘汰される。

 倒産する企業が増えれば失業者が増える。失業者が増えれば購買力が下がる。売れるものは安いものばかりになる。安いものしか売れない、あるいは安いものの方が売れるから販売サイドはますます価格を下げる。あるいは低価格商品を提供していく。低価格商品は利益が薄いから、より一層のコスト削減に勤める。
 では、どの段階でコスト削減をするのか。製造、流通(輸入も含め)、販売のどれかということではなく、それぞれの段階で少しずつコストを削減していくことになるだろう。要はどこも儲からない図式が出来上がってくる。
 海外で安く生産して輸入・販売するから、国内企業は全く恩恵を受けない。しかも販売を担当するのは人件費を抑えた非正規社員中心か、何年も安い給料に据え置かれた正社員だ。
 これで一体誰が潤っているのか。せいぜい少数の経営陣だけだろう。すでに現在がこの段階にほぼなっている。

 TPPは全品目原則関税ゼロにするというものだ。デフレ経済下で全分野に安い商品が津波のように押し寄せてくれば日本経済はどうなるか。誰の目にも明らかだろう。
 この言い方に抵抗を感じるなら、津波ではなく大波、小波程度でもいいが、押し寄せるのは事実だ。市場開放を迫られ、かなりの分野に海外から安い商品が入ってくる。この先は言わなくてもいいだろう。先述した順が繰り返され、少なめに言っても、誰も潤わない現実だけが待っている。

 それでもまだ輸出が増えるではないか、と言う人がいるかもしれない。
そのことはすでに6で述べたのでもう一度読み返して欲しい。世界経済悪化の中で輸出の受け入れ先になる国はないのだ。アメリカは不況に突入しているからFTA、TPPで輸出を増やしたいわけだし、EUも同じ状態だ。
 中国、インドも現状ではまだ輸出依存国で、自らが外国の輸出受け入れ先になれるほど市場が成熟していない。アメリカ以外のTPP参加国は第一次産業の輸出に依存している国である。

 これ以上言う必要はないだろう。
少なくともデフレ下のいま、自由貿易を進めることはなんのメリットもないどころか、むしろ景気悪化をさらに進めるだけだ。いわんやTPPに至ってはマイナス以外に何もない。
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