高齢者受難時代の幕開け(2)
ー老人ホームは現代版姥捨て山かー


老人ホームは現代版姥捨て山か

 A氏は住宅型有料老人ホームに入所している。今秋で79歳になる。2代目経営者だったが、7、8年前に息子を社長にして自分は取締役会長に納まった。
 これだけを見るとバトンタッチはうまく行ったように思える。だが、実態はそうではなかった。少なくとも親子関係は。
 古くからの幹部社員は息子は経営者の器ではないと見ていたし、当時相談された私も「資本と経営の分離」を勧めた。だが、彼は周囲の助言を無視するように息子を部長から副社長に、そして社長にして、自分は代表権のない会長になった。
 その会社が堅実経営だったのは彼が経営者としてしっかりしていたというより、専務、常務という古参幹部の補佐があったためだが、彼らは息子が副社長になった頃に相前後して定年退職し、九州各地の工場長も同じように定年等で辞めていった。

 もともと他人の言うことは聞かない、ある意味お坊ちゃん育ちの経営者だったが、もう社内で彼に助言する人間は誰もいなくなった。
 それでも親子の関係がうまくいっていればまだよかったが、息子が副社長になった頃はほぼ断絶状態。彼は息子との会話を避けるようになった。
 それが家庭内のことならまだしも事業に関することでも2人の会話はないどころか、徐々に発言も封じられるようになり、息子が社長になると「親父は会社に出て来なくてもいい」と言われ出したらしい。

 「私は今、会社がどうなっているのか、本当は報告して欲しいんですが、一切口を出さずにいます」
 なぜ、そこまで親子関係が悪化したのか。原因の一端は彼の離婚あたりにありそうだが、決定的になったのは取っ組み合いの喧嘩をして息子に負けてからのようだった。息子の方も物理的に勝ったことから親を見くびるようになり、それから親を無視するようになった。
 この辺りは引き籠もり中年の親に対する暴力と似ている。

 今、彼は有料老人ホームに入っている。いつ頃から入所しているのか正確なところは分からないが、私との連絡が途絶えた頃から考えれば1年ほど前ではないかと思う。

 テニスのやり過ぎで半月板を損傷し、やがてもう片方の脚も悪くなり杖を突いてもヨチヨチ歩きのようになった。さらに悪いことに10数年前に前立腺がんの重粒子線治療を行った際に尿道が傷ついていたらしく、それが随分後になって尿が出にくくなるという症状が出てき、病院で導尿してもらう羽目に。

 余談だが慌てて前立腺がんの手術をしなければ、ここまで尿の出で苦しむことはなかったのではないかと思う。
 他にも軽い脳梗塞を数回患うなども重なり、自宅で横になって過ごすことが増え、とうとう老人ホームに入所することに。

 ホームへの入所手続き等は誰がしてくれたのかが気になった。というのは親子関係は断絶状態だし、同居パートナーは彼の体が弱り家で横になっていることが増えてからは食事の時以外は別々の部屋で過ごす状態だったらしいから。
 でもホームは「息子が探して、入れてくれたんです」と言っていたから少し安心したが、調べてみると入所したホームの月経費が安くて、こんな安い所に入れて大丈夫かと、また心配になった。
 まさか厄介払い? そんな考えも頭を過(よ)ぎったが、彼の幼馴染みは「厄介払いですよ」と言い放った。

 だとすればなおのこと悲しすぎる。面会は月に1度、事前予約制と施設から告げられていたが、月末近くまで待ち5月31日の予約を入れた。誰か身内が面会に来ていれば、すでに消化されているからと断られるはずだが、すんなり認められた。
                                     (3)に続く


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