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治療方法で差がない前立腺ガンの死者数(2)


メリット、デメリットを判断して選択

 ここで1つ断っておきたいが、監視療法というのはなにもせずほったらかしにしているということではない。数か月に一度定期的な検査をし、その間の変化を監視しているということであり、ガンの転移が認められれば、その段階で積極的な治療を行うことも考慮するということだ。

 例えば私の場合、5年前に前立腺ガンと診断されてから3か月ごとに病院で血液・尿検査を、半年に一度超音波による膀胱、腎臓検査、1年に一度CT検査、さらに2、3年に一度MRI検査を行い、経過を観察している。
 CT、MRI検査は膵臓を調べる意味もある。というのは妻と弟が膵臓ガンで亡くなったのと、私自身、膵臓にのう胞があると診断されたからで、それが膵臓ガンになる懸念があるかどうかを経過観察している。

 この5年間で前立腺ガンの腫瘍マーカーPSAの数値は5.5から15.5まで上がってきた。当初、医師には「PSAの数値が2桁になったら積極的な治療を考えます」と告げていた。
 3年前に8.9からいきなり11.4にPSA数値が上がった時は正直驚き、積極的な治療(この時考えていたのは重粒子線治療)を行うかどうか考えたが、もう一度3か月後の検査結果を見ることにした。
 すると次からの検査では10.5、9.4、8.7と下がった。その後も11.5、15.9、13.2、15.5などと上がり下がりしている。

 この間、私と主治医の間にある種の認識の共有が生まれ、最初の1年は「積極的な治療を」と勧められたが、2年後には「この段階のガンでは本当は積極的な治療をした方がいいんですが」と少しトーンダウンしていき、1年前ぐらいからは「正確に判断するにはもう一度生検した方がいいんですが、痛いのは嫌でしょ。もう少し様子を見ましょう」と医師の方から言ってくるようになった。
 いや、医師が必要と判断するなら再度、生検を受けてもいいわけで、私は一切の治療を拒否しているわけでも、科学を信じていないわけではない。

 できることなら避けたいのは手術による副作用、尿もれ、頻尿や、放射線治療による排尿困難の副作用で、前立腺ガンは退治したが、その代わりに出かけることが億劫になり生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を落とさざるを得なくなるより、従来通りの生活を楽しみたいと考えるからだ。
 ただガンが転移すれば迷うことなく積極的な治療を採用するだろう。

 私の友人はPSAの数値が10.いくらかと診断され、医師から重粒子線治療を教えられ、当時、九州には重粒子線治療施設がまだ存在しなかったので兵庫県たつの市の施設で入院治療をしたが、術後10年たって排尿困難の副作用で苦しんでいる。
 当時、私はもう少し様子を見てから治療法を選んでよかったのではないかと思ったが、こればかりは本人が決めることだから他人がとやかく言えることではない。
 しかし、前立腺ガンの進行が遅いということと、75歳過ぎると局所限定ガンの場合なら治療をしてもしなくても残りの生存年数に変化はないということを知っていれば違う選択肢があったのではないかと思う。

 もう1つは日本の過度な検診による弊害も考える必要があるだろう。PSAにしろPETにしろ、それがガンの早期発見=死亡率低下に貢献しているような錯覚を与え過ぎている。
 特にPETは自由診療で料金が高い割に感度(ガンが正しくガンと判定される割合)が17.8%と低いことは案外言われない。これは裏を返せば82.8%のガンが見過ごされていることを意味する。
 にもかかわらず医療機関がPET診療を勧める理由は何か。「医は算術」という言葉を思い出してもらえばいいだろう。


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