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 辺境の反撃が社会を変える。(2)
〜長崎新幹線は求めていない


長崎新幹線は求めていない

 さて、以下に紹介する2例は「地方の戯言」「カネ目の条件闘争」などではなく、地方が中央に突き付けた「ノー」であり、中央に対する明確な反抗と言っていいだろう。
 1つは九州新幹線で、もう1つはリニア新幹線という、ともに中央が地方に恩恵を「もたらして」きたものだ。かつては地方もそれを待ち望み、誘致活動まで積極的に行っていたにもかかわらず、なぜ両者とも「ノー」と言い始めたのか。

 九州新幹線(西九州ルート)は博多ー新鳥栖ー武雄温泉ー長崎を結ぶルートで、現在、長崎ー武雄温泉区間は建設中だが、新鳥栖ー武雄温泉区間は未着工状態が続いている。
 問題はこの未着工区間である。今年4月下旬、山口祥義(よしのり)佐賀県知事が衆院議員会館(東京・永田町)で開かれた、与党の九州新幹線(西九州ルート)の整備を検討する委員会で「新鳥栖―武雄温泉の間に、これまで新幹線整備を求めたことはないし、いまも求めていない」と強硬に反対の意思を表明したのだ。
 もともとこの種の話はややこしい。ルート決定にしろ、新駅設置個所にしろ各地元の思惑(それらの大半は捕らぬ狸の皮算用的だが)が複雑に絡み、建設までの道筋も路線もすっきり直線というわけにはいかず、妥協の産物のように蛇行することになる。

 そもそものところから言えば、新幹線の必要性からして一枚岩ではない。開通を強く望むのは起終点の自治体であり、その次はルート途中にある観光地であり、それ以外の自治体は新幹線建設の効果よりマイナス面が現れるというのはすでに多くのところで見られている。
 「利便性が増し地域が活性する」「交流人口が増える」という淡い期待は泡と消え、逆に地域の衰退に拍車がかかっている。それにもまして地元に重くのしかかるのは経済負担である。新幹線建設と在来線の切り離し、第3セクター化がバーターになることが多く、ルートの起終点以外の自治体はプラスよりマイナス効果の方を多く受けることになる。

 さらに九州新幹線(西九州ルート)建設をややこしくしているのは佐賀県は反対しているが、県内の観光地、武雄温泉・嬉野温泉がある地域の新駅、武雄温泉駅ー長崎駅間はすでに開通を見越して建設工事が進んでいることだ。
 県は曲がりなりにも西九州ルート建設に賛成し、県内各自治体も概ねその方向でまとまっていたと思ったが、ここにきて頑強とも思える反対の意思表示に県知事が転じたのだから、与党がお手上げ状態になるのも無理はない。
 なぜ、佐賀県知事は中央に反旗を翻したのか。知事の経歴からは今回のような事態を想像することはできない。
 山口祥義知事は落下傘候補で、佐賀県との縁は本籍地が県内というだけで、生まれも育ちも九州外である。総務省出身で、前知事が衆議院議員選挙に出馬するため任期途中で辞任した後を受けて立候補し、2015年に知事就任。
 こうしたいきさつから考えても自民党との関係は深く、与党の意向にここまで逆らうとは想像もしなかったに違いない。

 「条件闘争だろう」「西九州ルートはすでに一部着工済みなのだから、最終的には妥協してくる」
 こうした見方があるのも事実だろう。築地市場の豊洲移転にあれだけ反対しながら、いつの間にかシラッと移転した小池百合子・東京都知事の例もあることだから、山口祥義知事が最後まで中央に反抗し続けるかどうかは現段階では分からない。分からないが、これは地方の反乱であり、中央と地方の関係が従来とは変わってきたことだけは確かだ。

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                                          (3)に続く


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