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ゴルフ場が危ない!(2)
若木ゴルフ倶楽部会員の預託金返還闘争。


ゴルフ西洋から突然届いた通知

 本稿では佐賀のゴルフ場、若木ゴルフ倶楽部のことを中心に、預託金返還問題で揺れるゴルフ場と会員による裁判闘争について紹介してみたい。
 若木ゴルフ倶楽部は叶シ洋環境開発が昭和62年から建設に着手し、平成3年にオープンした、デズモンド・ミュアヘッド設計による美しいコースが自慢のゴルフ場である。
 当時、西洋環境開発は茨城県に美浦ゴルフ倶楽部、北海道に桂ゴルフ倶楽部、岡山県にたけべの森ゴルフ倶楽部、沖縄県に嵐山ゴルフ倶楽部、そして佐賀県に若木ゴルフ倶楽部と、5コースをほぼ同時期にオープンしていた。
 まだバブル期の余韻が残っている時期のオープンということもあったが、若木ゴルフ倶楽部の会員権は周辺ゴルフ場と比較して高めだったにもかかわらず、よく売れた。セゾングループが造ったという信用と、デズモンド・ミュアヘッド設計というステータスがバックにあったからである。それが10年後に預託金返還不能の事態が訪れようとは、当時は誰も夢にも思わなかったに違いない。
 2000年に入り、全国でゴルフ場が倒産し出すと、将来に一抹の不安を感じる会員もいたが、セゾングループに限ってそんなことはないと誰もが考えていた。
 ところがである。2001年7月27日付で、突然、「会員の皆様へのお知らせ」と題した通知がゴルフ西洋から会員の元へ届けられた。そこには「ゴルフ場を取巻く経営環境も日本経済同様に悪化の一途をたどっており」、当ゴルフ場も「設立以来一度も収益を生み出すことが出来ず、前期決算平成13年1月31日期において51億円にのぼる累積損失を計上」していると、この間の経営状態の悪化を訴え、「この厳しい財務状況から脱却し、再生するため」の「事業再建計画案」が示されていた。


再建案の中身は預託金放棄が中心

 そこには「会員の皆様に弊社の株主になっていただき、会員の皆様と現株主がパートナーになることにより、弊社を再建させ」るのが「基本的なコンセプト」だと謳いつつ、その一方で、預託金債権残高の5%で同社の株式を取得し、それと引き換えに「保有されている預託金債権の放棄」を求めていた。もし、この「計画に会員の同意が得られなければ破産、その他の法的手続きについても視野に入れざるを得ず、結果的に会員権およびプレー権の喪失につながる」と記すことも忘れてはいなかった。さらに社名をプレミアゴルフ株式会社に変更申請中だとも記されていた。
 つまり預託金を放棄しなければ会社は倒産するしかなく、その場合は民事再生法か会社更生法の適用を申請するが、そうなれば預託金の返還どころかプレーさえ出来なくなるがそれでもいいのかと、迫っているのだ。


「守る会」を結成し反発を強める会員

 ここまでなら各地で起こっているゴルフ場の経営破綻と同じである。だが、「若木」の場合は少し事情が違っていた。平成13年4月にドイツ銀行グループに全株式が売却され、その後、株式の50%をアメリカの投資会社、ローンスターグループが購入したのだった。しかも、若木ゴルフ倶楽部だけでなく、同時期に西洋環境開発が建設オープンした美浦、桂、たけべ、嵐山の各ゴルフ場も加えた5場を一体として再建するというものだった。
 まず最初に会社の再建案に反対の声を挙げたのは「たけべ」だった。「嵐山」も会社側による「説明会」が開かれた9月1日にはすでに「嵐山ゴルフ倶楽部会員の権利を守る会」が結成されており、プレミアゴルフ側が示した再建案に対して「会員だけに犠牲を強いる一方的で理不尽な内容だ」と反発を強めていた。
 9月2日、若木ゴルフ倶楽部内で開かれた「説明会」では会員の間からゴルフ西洋の背信行為を強く非難する声が相次いだ。会員名簿、ゴルフ西洋からドイツ銀行グループへ譲渡されるに至った経緯、譲渡契約書、財務諸表等の情報開示を次々に求めたのだった。しかるに、会社側の返答は守秘義務を盾に明確な返答をせず、そのことがかえって会員の反発を招いた。


会員を甘く見た外資

 結局、プレミアゴルフの意図するところとは反対に、説明会をきっかけに会員の反発は強まり、9月末に「若木ゴルフ倶楽部を守る会」設立準備会を、さらに翌月8日には「若木ゴルフ倶楽部を守る会」設立総会が開かれ、対決姿勢を強めていった。
 当初、プレミアゴルフは安易に考えていたのではないかと思われる節がある。例えば9月1日に嵐山ゴルフ倶楽部で説明会を開いているが、説明会場にマーフィー社長が出席せず、会員から激しい非難を浴びたし、「若木」では急遽社長が出席したが、会員の怒りはゴルフ西洋=セゾンの背信行為をはげしく非難するもので、会社側の再建計画案に賛成するものは誰もいなかった。そういう意味では、会社更正法、民事再生法の適用でプレー権まで失うか、それとも預託金放棄に応じるかと二者択一を迫るゴルフ西洋(プレミアゴルフ)の戦略は失敗したことになる。
 会員の反対理由を整理すると次のようになる。
1.ゴルフ西洋(プレミアゴルフ)の背信行為
 会員に連絡もなしに会社を外資に売却したのはなぜか
2.会員だけに負担を強いる預託金債権放棄に反対
3.提案された再建計画案で本当にプレー権が確保されるか
 特に佐賀の会員に強かったのはセゾンに対する怒りである。会員権の販売に西友の外商が同行してきているので、ほとんどの人が西友に対するお付き合いで会員権を買っているからだ。
 西友は佐賀駅前に、当時としては都市型の大型スーパーをオープンさせていたこともあり、佐賀の活性化のために貢献してくれている「セゾングループが造るゴルフ場」だから、少々高くても買ったという意識を皆持っていた。これを日本的な感情だと笑うことは簡単だが、実は反対の原動力は意外にこんな所にあるものだ。
 次回は「守る会」の具体的な反対闘争を紹介する。

('03.01 データマックス刊「IB」に掲載)


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「日本のゴルフ場が危ない!」(栗野 良著、海鳥社刊、1,800円)に詳述

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