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福岡ホテル戦争(4)
個性化で生き残りを図る異業種参入組


   300室前後の大型ホテルがキャナルシティの影に怯えている一方で、個性化と細やかなサービスを武器に健闘しているのが100室前後のホテル。これらには異業種からの参入組が目立つのも一つの特徴である。


 3カ月間20%引きの価格破壊に
 周辺ホテルは戦々恐々の毎日


 前号でも触れたが、福岡ワシントンホテルの宿泊料金はサービス料、消費税込みで、シングルが8,950〜10,763円、ツイン16,995〜18,694円である。筆者はもう少し高めの料金、例えば博多駅中央街のセントラーザ博多並みの料金を予想していたので、周辺のホテルに与える影響は意外に大きいかもしれないと感じた。因みにセントラーザ博多はシングルが10,500円、ツイン17,000〜20,000円である。ただし、この料金はサービス料、消費税別だから、サ・税込みだとシングルで11,900円になる。三井アーバンホテル、チサンホテル博多のシングル料金が7,725円。これらと比較すると福岡ワシントンの料金はまだ少し高めである。
 だが、実際には7月末日までシングル9,517円を7,500円、ツイン16,995円を13,500円、トリプル20,394円を16,500円の宿泊優待料金を設定している。通常宿泊料金の約20%引きである。現在、この優待券をかなりの範囲で配っている(筆者はフロントでもらった)ので、実質は3カ月間20%引きと同じである。周辺のホテル関係者が「かなりの価格攻勢をかけてくるらしい」と恐れるのも無理がない。
 しかし、この程度ならまだ互角に戦えないこともないが、業界関係者が恐れるのは「半額近い価格で攻勢をかけてくるらしい」という噂である。真偽の程は定かではないが、こうした噂が後を絶たないのも、それだけ「ワシントン」の影に怯えているからともいえる。
 その一方で、「中洲にワシントンがオープンしたときは心配したが、影響はなかった。今度も少したたないと分からない」(博多コーケンプラザホテル・尾村英昭支配人)という声もある。中洲のワシントンホテルはシングル料金が6,500〜8,000円(サ・税別)。かなり低料金である。それだけに「もしかすると今回も単なる杞憂にすぎないのでは」という期待に似た思いが業界関係者の間にはあるようだ。


 劇団四季のチケットをセット
 キャナル効果に相乗り企画も


 ホテルの供給過剰を心配する一方で「福岡市トータルで考えるとキャナルシティのような観光スポットができるのはいいことだ。できれば従来とは別の客層が開拓されて、キャナルシティに来る人の10%でもこちらに来てもらえれば」(三井アーバンホテル)という声もある。
 博多駅に隣接という足回りのよさからか、年間平均客室稼働率87%、平均単価11,900円の好業績を上げているセントラーザ博多もこの機会を積極的に利用しようとしている。「オペラ座の怪人」など劇団四季のチケットをプラスしたパック商品の販売を通じて「これからはプラスαを取り込んでいく」(永田副支配人)予定だ。
 三井アーバンホテルも、旅行代理店とタイアップして劇団四季のチケットをプラスした商品を打ち出している。同ホテルの場合は、すでにスペースワールドの入場券をセットにした宿泊プランを発売している実績もあり、キャナルシティに近いという利点を積極的に生かして新たな客層を取り込みたいところだ。
 ただ、こうしたプランは、客室単価の実質的な値下げになり、経営を圧迫してくることが懸念される。それだけにホテルにとっては痛しかゆしというところか。その点、セントラーザ博多の平均客室単価11,900円という数字は立派である。因みにこの数字は全日空ホテル(博多駅前)を抜いているのだ。福岡ワシントンホテルに対しても「観光で来るならいいがビジネスでは距離が中途半端だから難しい。うちの方が便がよくて使い勝手がいい」と自信をのぞかせる。


 個性化を武器に健闘する
 異業種からの参入組


 既存の、客室数を200〜300有するホテルがキャナルの影に怯えているのに対して、客室数100未満のコンパクトなホテルはどちらかといえば個性で勝負しようとしているように見える。
 例えば、キャナルシティとは那珂川を挟んで対岸に位置するホテルイル・パラッツォはエンターティメント、ハートフルをコンセプトに、既存のホテルと差別化を図っている。まず建物自体が自己主張しており、本来のホテルの機能とかサービス以前に、建築物が話題を呼び、集客したのはイリ・パラッツォが最初だろう。そういう意味ではシーホークやキャナルシティ等の先駆け的存在である。
 総客室数62室というコンパクトなホテルながらイタリアレストラン1、バー4、クロッシングホール等を備えている。アルド・ロッシュ等世界の有名な建築家たちによってデザインされたスペースとはいえ、宿泊料金のシングル13,000〜15,000円、ツイン21,000〜24,000円、スイート50,000〜55,000円は地の利を考えれば決して安くはない。そのため、宿泊客はかって「カモメ族」や「みどり族」と呼ばれた観光客中心かと思いがちだが、「平日は70%がビジネス客」(杉谷利博支配人)。それも関東からのビジネス客が40%を占めているという。今でも週末は満室状態が続いているが、宿泊客はやはり20〜30代の女性を中心とした若者が多い。
 クロッシングホールは当初ディスコホールとしてオープンしたスペースだが、1年半前に披露宴やコンサートもできる多目的ホールに衣替えしてから年間100組の披露宴、70本の洋邦楽コンサートを実施している。
 一方、ビジネス客より観光客の方が多いというのは博多コーケンホテル。1階のコーヒーショップだったスペースを改装して、ベークショップ神戸屋として3月28日にオープンしている。バブル崩壊後バイキングを実施しているホテルが多いが、同ホテルは焼きたてのパンの食べ放題を実施している。「バイキングは原価率が悪い」(尾村支配人)からである。
 イル・パラッツォは全国で料飲ビルを展開しているジャスマックが、博多コーケンホテルは不動産管理や遊技場等経営の株式会社公建が経営母体で、ともに異業種からの参入だが、最近もう一つ新たに異業種からの参入が増えた。4月3日オープンのデュークスホテル(博多駅前2丁目)である。同ホテルは喜多村石油が現在地にあったガソリンスタンドを閉鎖し、総客室数153室で「宿泊主体のホテル」(橋垣淳司支配人)。宿泊料金はシングル7,400〜8,200円、ツイン12,000円(サービス料込み、消費税別)とリーズナブル。「くつろぎを第一に考えた」というように全体的に木目のやわらかい雰囲気で演出している。シャワー付きトイレや小型3面鏡など女性を意識した設備になっている。コンセプトもしっかりしているし、地の利からいっても大いに健闘するのではと思われる。

                                                                           データ・マックス刊「I・B」掲載


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