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栗野的流通戦争の読み方(6)
ちょっとおかしいダイエー包囲網

 ダイエー包囲網がどんどん狭まりつつある。
主力3行はダイエーにひたすら産業再生機構の活用を迫っているが、高木ダイエー社長が土俵際で最後の踏ん張りを見せている。
産業再生機構を活用するための条件は銀行と企業両者の合意が必要という項目を盾に、ダイエー側が最後の粘りを見せていると言ってもいいだろう。

 それにしても、今回の金融庁のやり方はおかしい。
29日にテレビの報道番組で竹中平蔵経済財政・金融担当相は「基本的には透明なプロセスであくまで当事者間で解決」するよう述べると同時に、「市場からの信頼性がないといけない」と暗に産業再生機構活用を勧めるような言い回しをしている。
 金融庁が言う「市場からの信頼性」とは産業再生機構の活用を暗に意味しているのであり、そのことを銀行団も分かっているから、ダイエーに対し執拗に産業再生機構の活用を迫っているのである。

 ここで双方の主張とその背景にあるものを整理してみよう。
まず銀行団。
1.ダイエーの自主再建案は信用できない。
 理由:過去2度、ダイエーは再建計画を訂正してきた。
 その都度、求めに応じて金融支援をしてきたが、もう騙されない。
2.金融庁から今度の再建計画は市場の信頼性を得るものでなければダメだと、暗に産業再生機構の活用を示唆されている。
3.産業再生機構を活用すればダイエーに対する不良債権が正常債権になる可能性が非常に高く、銀行の不良債権処理が大きく進む。
4.自主再建の場合は「私的整理のガイドライン」に基づく再建になり、各行の負担率が問題になる。その場合、主力3行だけでなく他の銀行も含め銀行間の負担調整に時間がかかる。
5.銀行は来年3月までに不良債権の処理を迫られており、産業再生機構を活用する場合の今後のスケジュールを考えると8月末までに決着を付ける必要がある。

ダイエー側
1.自主再建計画で行く。そのために丸紅・東急不動産・ドイツ証券の3社連合というスポンサーも見つけた。
2.産業再生機構を活用すればダイエーは食品スーパーとそれ以外に分割され、生き残ってはいけても反転攻勢の可能性もなくなる。
3.イオンの傘下に入るのだけは絶対嫌だ。
4.民間のことは民間同士で再建するのが筋。
 なぜ、そこに国の機関である産業再生機構が入ってくるのか。行政がそこまで関知するのはおかしい。

 こうして整理すると、ダイエーの言い分の方に歩がある。
銀行団(金融庁)はまず産業再生機構ありき、の感が強い。
これはおかしい。
なぜ、民間企業のことに行政がそこまで入り込むのか。
まるで国営企業化でも目指しているように見える。
金融機関の国営化の場合は、国の根幹とも言える金融システムを守るため、という大義名分があった。
しかし、今回はない。あるのは竹中平蔵金融担当相のメンツだけ(?)だ。
 ダイエーという巨大企業が倒産すれば、いち小売業にとどまらず産業全体に及ぼす影響が大きいから、それを防ぐためというなら、なにも産業再生機構でなくてもいい。
しかも、丸紅・東急不動産・ドイツ証券のようにダイエーに資金支援を申し出ている企業がいるにもかかわらず、民間企業の自主再建を認めないのはおかしい。

 もっとおかしいのはマスコミの論調も含め国民の対応だ。
本当に産業再生機構を活用するのがいいことなのかという議論が湧き起こらなければならないのに、その気配が全くない。
産業再生機構の活用=国民の税金を活用することなのだから。
仮に産業再生機構がダイエーの不良債権を買い取ったとして、その後、ダイエーの再生に失敗すればそれこそ膨大な税金の無駄遣いだ。

 それなら、むしろ自主再建に任せた方がいい。第一、それが資本主義社会の原則でもある。
どうしても産業再生機構の活用を言うなら、その後の再生計画も明らかにしてからにして欲しい。
そういうことをダイエー、銀行団(金融庁)双方に求めていくことこそ、市場の信頼性を得ることに通じるのではないか。
今回のダイエー処理問題は単なる1企業の問題でも、ダイエーがどこに吸収されるかといった野次馬的な興味の問題だけでは済まされない。我々は「物言わぬ国民」ではダメだ。きちんと物の本質を見抜き、チェックする国民にならなければ。

04.08.31 


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