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「安・近・短」で元気なスモールビジネス

 戦後最長といわれたいざなぎ景気を超える好景気といわれても、地方や中小企業には実感も恩恵もないのが今回の景気の特徴。それどころか、日銀が昨日発表した9月企業短期経済観測調査(短観)では中小企業の景況感は悪化している。
 ところが、景気後退局面にもかかわらず狭いエリアに10店舗もの新規出店が相次ぐなど元気な地域もある。それらに共通するのは「安・近・短」ビジネスーー。

中心部を離れた住宅地で相次ぐ新規開店

 だがこんな異変(?)に気付いたのは数カ月前。この数年、シャッターが降りたままの空き店舗・事務所跡に改装工事が入り、次々と新店舗がオープンしだしたのだ。タクシーの運転手に聞いても「景気は良くなりましたね」という。明らかにマクロ数字とは異なる動きが出ているのだ。
 従来、地方景気は「ジェット機の後輪」に例えられていた。離陸する時(景気が上向く時)は一番後に上がり、着陸時(景気の後退時)には最初に降りるからである。今回の好景気は8月がピークといわれているから、地方では開店より閉店が増えているように思えるが、ところによっては全く逆の現象が起きているのだ。
 といっても福岡市の中心部、天神・大名地区の話ではない。むしろ市中心部は数年前からオーバーストアがかなり顕著になっている。それでもなおアメーバーのように、テナント料が安い周辺地区へとエリアを拡大しながら生き延びてきたが、それももう限度。中心部の空洞化が進み、大名地区は新ビルでも空きテナントが目立つようになっている。

 今回、店舗のオープンが相次いでいるのは中心部を離れた住宅地。
例えば福岡市南区長住地区では、このわずか数か月間に7、8店舗もオープンしている。こんなことはかつてなかったことである。しかもそれらの業種は耳鼻咽喉科、調剤薬局、薬販売店、塾、フィットネススタジオ、パソコン教室、明太子販売店、和食、中華等の店と実に様々だ。このほかにも食品スーパー、ドラッグストアが計3店オープンしているから、これらを含めれば10店以上が狭いエリアにオープンしたことになる。
 長住地区は住宅地である。といっても、新興のベッドタウンでもないし、マンション建設が相次いでいるわけでもないから人口は恐らくよくて横ばいだろう。
それなのに、なぜ、というのが率直な疑問だ。

初期投資が少ない20坪未満

 そこで一つ一つの店舗を細かく見ていくと、ある共通点が浮かび上がってきた。スーパー、ドラッグストアを除けば、ほかの店は大体20坪未満のスペースなのだ。
 従来この程度のスペースは一番活用しにくいと最近まで敬遠されていた広さである。物販店のスペースは百貨店、量販店、小売店、路面店と業種業態の如何を問わず年々拡大する傾向にある。ある程度の商品点数が揃ってないと消費者が足を運ばないからだ。昔ながらの商店街が廃れた一因もここにある。だからこそ長年空きスペースになっていたのだが、その一見活用しにくいと思われていたスペースに次々と入居テナントが決まりだしたのだから、これは「異変」としかいいようがない。

 さらに細かく見ていくと、ほかのあることにも気付いた。
安心感と気軽さが売りなのだ。
 例えばパソコン教室は「月々わずか3,150円で習い放題」で、「個別授業」をすると「定額制」の安心感と、自分のペースで習える気軽さが支持されているし、フィットネススタジオも「女性専用」という安心感と、「トレーニング時間はわずか30分」の気軽さが人気になっていた。
 しかも、パソコン教室は通りに面した部分がガラス張り。中の様子が見えるのだ。以前なら習いに行くのが恥ずかしいという気持ちを考慮してか、それとも集中できるようにという配慮からなのか、教室は上層階などの外部からの視線を遮る場所に設置するのが一般的だった。これは落ち着いて習えるというメリットがある一方で、主催側には広くPRできないというデメリットがあった。
 そこで、教室を1階に持ってき、ガラス張りにすることで、PR効果を高めたのである。逆に利用者には入りやすさと安心感を打ち出す効果もあった。
 実際、習いに来ているのはシルバーが多かった。それだけパソコンが一般的になったということでもあるが、気軽さ、親しみやすさを打ち出したところに勝機があったと思える。
 一方のフィットネススタジオは「30分」で痩せられる(かもしれない)というイメージを与えているところが流行っている要因だろう。
 現代人は何かをするために努力をするのを嫌い、楽してなにかをしようとする傾向が強い。そこに30分フィットネスがピタッとあったのだ。

ユーザーの目線で「安・近・短」

 パソコン教室はパソコン10台以下、フィットネススタジオもマシン10台以下の設置である。最初から少人数制を対象にしているのだ。少人数対象だから設備投資は少なくてすむ。スペースも少なくていい。つまり初期投資が少なくてすむだけでなく、その後のテナント料などのランニングコストも少なくてすむというわけだ。
 その一方で、利用者にはアットホームな雰囲気を提供できる。フィットネススタジオやパソコン教室にオシャレな格好で行かなくてすむし、そのための時間をわざわざ空けなくても買い物のついでにでも行ける気軽さ。自宅で一人黙々とマシンに励むのは味気ないが、皆でワイワイガヤガヤと話しながら井戸端会議的な楽しさでマシンを使う気軽さが受けている要因だ。

 これらスモールビジネスが元気な要因をキーワード的にまとめると低料金という「安心」、いつでもすぐ行けるという距離的な「近さ」、そして短時間でできるという「短」。
スモールビジネス成功の要因は「安・近・短」といえそうだ。


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