Google

 


超高層ビルの外壁を制する窓拭きロボットの開発

日本ビソー  代表取締役会長 矢頭成元
長崎県西彼杵郡時津町日並郷3788 / tel  095-882-1111

 昨年10月、宮崎シーガイアにオープンしたホテルオーシャン45の高さが154m、今春福岡シーサイドももちにオープンするシーホークホテルが143m。九州でも確実にビルの高層化が進みつつある。ビルが高層化すればするほど外壁メンテナンスにも高度なテクノロジーが要求されてくる。
 例えば窓拭き。まさか地上150mの窓を人が拭いているとは思わないだろうが、かといって超高層ビルは窓を拭かないわけではない。人ではなく機械が拭くのだ。ホテルオーシャン45の窓は日本ビソー(長崎本社・長崎県西彼杵郡時津町、矢頭成元会長、資本金2億4,000万円)が開発した窓拭き用ロボットが拭いている。

「巻き取る」から「つかむ」へ変換

 窓拭きといえば、低層は今でもゴンドラに人が乗って拭いているが、このゴンドラも昔はウィンチにロープを巻きながら上下させていた。最初は手動、後にはモーターで。ところがドラム状の回転体にロープを巻き取りながら上にいく巻き取り方式だと、高度が高くなればなるほどロープは長くなる。ドラムの直径も大きくなる。従って、高く昇るほどゴンドラは重くなる。高度によりドラムの直径が変化すれば、昇降するゴンドラのスピードも変化する。危険だ。
 同社は「巻き取る」を「つかむ」という発想に転換し、この矛盾を解決した。ちょうど人がロープをつかんで登っていくように、ワインダーがロープをつかんで昇っていく。
 「ジャックと豆の木ではないですが、ロープさえぶら下がっていれば天まででも昇っていけます」(矢頭会長)
 問題はつかみ方、つまりブレーキをどうかけるか、である。試行錯誤の結果、回転ドラムにV字型の溝を切り、その溝に沿ってロープを1回転させる方式を採用した。V字型の溝とロープの摩擦力でブレーキをかけるのだ。こうして世界14カ国の特許を持つ同社のエンドレスワインダー「ビソマック」は誕生した。それでも初期の型はロープをV字溝にしっかり押さえつけるために、V字溝に蓋をするような感じで鉄板で押さえつけていた。現在はドラムに特殊な材質を使い、押さえの鉄板は使用してない。

横浜ランドマークタワー
新宿・新都庁舎にも

 同社が最初に電動式ゴンドラを作ったのは昭和43年。まだ他社が手動式ゴンドラを使用していた頃である。この年、147mの霞ヶ関ビルが完成し、わが国における本格的な超高層ビル時代が幕開けた。これが追い風となった。矢頭氏が会社を設立して2年後である。
 さらに2年後、電動仮設ゴンドラの販売をやめ、レンタルに切り替えた。「販売だと購入したユーザーがメンテナンスをしなければ事故が起こる危険性がある」からだ。「システムで安全を提供する」という同社の考え方はすでにこの時に確立されたといえる。
 エンドレスワインダーの開発で外壁メンテナンス技術は急速に進歩した。特に近年高層ビルは凹凸のあるデザイン、カーブした壁面、横連窓など個性化を競う傾向にある。こうした壁面には通常タイプのゴンドラでは対応できない。特に横連窓はゴンドラも従来の縦移動ではなく横に移動しなければならない。上から釣り下げる仮設ゴンドラでは横に移動するのは難しい。ビルに最初から設置した本設ゴンドラの登場である。
 本設ゴンドラはガイドレールに従って移動するため、ビルの設計段階で計画に組み込み、そのためのガイドレールを敷設しておかなければならない。当然、設計段階から参加することになる。ホテルオーシャン45の窓拭きロボットもこうして開発された。
 現在ではチェア型ゴンドラ、アーム伸縮型ゴンドラ、アーム俯仰型ゴンドラ、斜面用キャタピラ型ゴンドラ、窓拭きロボット横連窓型など様々なタイプのゴンドラが開発されている。東京都の第2庁舎、横浜ランドマークタワー、セントルークスタワーなどで同社の窓拭きロボットが、さらに東京ドームで屋根清掃用ゴンドラ、横浜ベイブリッジで補修用ゴンドラが活躍している。

参考にしたい魅力的なシステム

 さて、同社の登記上の本社は東京である。だが現在、実質上の本社機能は長崎に移っている。同社が長崎に移転したのは平成元年。最初は研究所の移転だった。それが県の誘致もあり工場を、その後人事部門、教育センター、総務と続き、今では「本当に東京で必要なもの以外はすべて」長崎に移している。それが可能になったのは「コンピューターを導入したから」と矢頭氏は言う。
 「ピラミッド組織を構成している機能を一度徹底的に分解して、コンピューターを使えば長崎に移してもできるものはすべて長崎に移しました」
 東京に残っているものは営業機能と経理の一部、そして社長を取り巻くスペシャリスト集団だけである。「東京は社長を中心として攻めの経営を、長崎は研究開発や製造、総務などのどちらかといえば守りを中心とした経営というように分けています」と矢頭氏。
 工場の地方移転といえば安い地価と労働力を求めて、というところが多い。同社に対してもそういう見方をするところがある。だが、同社の長崎本社の在り方は九州の企業に多くの問題点を投げかけている。
 例えば人の採用。地方企業は優秀な人材が採用できないと嘆くが、職場環境も待遇も整備せず夢もなければ人が来ないのは当たり前だろう。同社の場合、長崎本社と東京本社は同じ待遇である。東京は住宅費が高いので住宅手当が別途付いているだけだ。つまり人件費を安く抑えるために長崎へ移転してきたわけではないのだ。
 こんな話もある。「給料が下がるのは覚悟しています」と、東京からUターン希望者が面接に来た。以前の職場の給料を聞いて矢頭氏は「君の能力は不当に低く評価されている」と、以前の給料より高い額で採用したのだ。
 待遇面、特に人事考課は公明正大で評価システムが社員にオープンなことが前提である。ところがオープンな企業はまだまだ少ない。特に九州では数えるほどしかないのが実状である。同社では能力主義人事制度を採用しているが、まず「私のチャレンジカード」に各人の年度目標を自主設定し、それに基づいて業績考課、能力考課を本人、上司がそれぞれ行い総合的に評価する仕組みになっている。ここで重要なのは評価の内容が本人にオープンいなっていることである。会社がなにを求め、自分はなにをしようとし、それに対してなにがどう評価されているのかが分かる仕組みになっているのだ。
 同社はこのほかにも作業環境、オフィス環境などあらゆる分野で多くの問題点を九州の企業に投げかけているが、ここではこれ以上詳しく紹介する紙数がないので別の機会に譲りたい。最後にひと言だけ付け加えておくと、矢頭氏は平成4年2月、会社設立25周年を機に社長職を社員(血縁関係はない)に譲り、代表取締役会長に就任している。  

 


(著作権法に基づき、一切の無断引用・転載を禁止します)

トップページに戻る 九州と岡山の技術INDEXに戻る