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緑地や水面を適切に配置した都市づくりを提案

九州大学大学院 教授 片山忠久
福岡市

 阪神大震災から数カ月。地震の教訓がいろいろ語られているが、その中に生け垣や公園の樹木が家屋の倒壊や延焼を防いだ例が報告され、注目を集めている。緑は街の景観やうるおいに役立つだけでなく、防災面でも大いに役立っているというわけだ。

都市の熱環境を
改善する緑の役割

 ところが緑の効果はそれだけに留まらず、都市の熱環境の改善にも大いに役立っている、と九州大学大学院総合理工学研究科の片山忠久教授は主張する。片山教授によれば、都市では建物の高層・高密化と地表面の舗装化が進み、裸地や水面、緑地などの自然地被が少なくなり、それが原因で都市の高温・低湿化、いわゆる都市の砂漠化が進んでいる。特に戦後の復興期から経済成長期に差し掛かかった1950年以降、急激に都市の砂漠化が進行している、という。実際、都心部と郊外の気温を比べてみると、福岡で3〜4℃、東京で6〜7℃都心部の方が高くなっているとのことだ。

ところで、都市を構成する地被(地面をおおっている)材料には裸地、芝地、透水性アスファルト、アスファルト、コンクリート舗装があり、これらの表面温度を測定すると、裸地と芝地、透水性アスファルトとアスファルト舗装はほとんど変わらないのに対して、裸地・芝地とアスファルト舗装ではアスファルト舗装の方が夏季の温度が7〜10℃高く、裸地・芝地とコンクリート舗装とではコンクリート舗装の方が2〜3℃高くなっている。
 つまり、コンクリートの建物やアスファルト舗装などの「人工地被率が大きいところほど気温が高くなる」わけで、このことからも郊外より都心部の方が気温が高いといえる。
 もちろん都心部の温度上昇の要因はほかにも「人口の増大と集中に伴う大量のエネルギー消費による排熱の増大」などもあるが、少なくとも緑地や裸地を取り入れれば都心部でも温度を低くする可能性がありそうだ。

海の通り道を利用し
都市の気温を冷却

 気温に影響を与えるものにもう一つ風と水がある。特に福岡や神戸のように海岸線に開けた大都市は日中都心部の気温上昇が大きい分だけ海風陸風が発達しやすい。早朝から日没までは海から陸に向けて吹く海風が、日没から早朝にかけては逆向きの陸風が吹く循環が1日に起こるのだ。海風は海の冷えた空気を陸地に送り込むため、都心部の気温上昇を押さえる冷却効果がある。

 実際に片山教授たちが天神、大橋、白木原で測定した結果、海風時の気温は白木原より天神の方が2.7℃低いことが分かっている。海岸に近い天神の方が海岸から遠い大橋や白木原より最高気温が低いのは「天神は温度が最高気温に達する前の午前10時頃から海風の冷却効果を受ける」からで、大橋は天神より2時間近く遅れて海風の冷却効果を受けるため、その分だけ最高気温が上昇している。
 このように海風の冷却効果が認められている以上、海風を上手に取り入れれば都市の熱環境はかなり改善されるはずである。だが、問題なのは海風の方向。ただ測定の結果、海岸線に対して直角に吹くことが確認されている。しかし、風は気ままだから高い建物など大きな遮蔽物があればすぐ方向を変えてしまう。
 そこで、できるだけ風を通りやすくしてやればいいわけだが、この「風の通り道」は
 @海岸線に対して直角であることが望ましい。
 A周囲より温度が低くなければならない。
 まず@の条件に合致するものとして河川が挙げられる。河口近くでは海岸線に対し直角な場合が多いからである。
 次にAの条件だが、これには河川や水面、緑地、樹木などが挙げられる。
 これらの条件を考慮しながら目を福岡市に転じてみると、まず河口に注いでいる大きな河川に多々良川、那珂川、室見川があり、これらの河川が市内を4つの区域に分割している、と片山教授は語る。
 「これらの流域を整備し、沿岸を並木道にすることで風を通りやすくし、クールアイランドの効果を高めることができます。さらに市内中央部の海岸から内陸に至る西公園 - 大濠・舞鶴公園 - 南公園 - 鴻ノ巣山の緑地を連結してグリーンベルトにし、那珂川と室見川に挟まれた市街地を分割することがヒートアイランドをこれ以上強くしないために必要です」
 今後は都市計画のマスタープランづくりの中にこうした視点を入れることが大事だと説く。

エコシティを実現する
都市づくりが必要

 近年、「地球にやさしい」とか「自然との共生」ということが叫ばれ、平成5年に建設省も環境共生モデル都市(エコシティ)の指定を行っている。北九州市もその指定を受け、北九州市都市環境計画「アーバングリーン北九州」をスタートさせている。片山教授は北九州市都市環境計画策定委員会委員長としてその基本計画案を作成している。
 その中にも河川や緑地帯を利用した快適な都市づくりに対する提言が行われている。その中の一部「『そよ風の道』の形成」と題した部分を紹介しておく。
 「紫川や都心の河川沿いのオープンスペース、公園・緑地や幹線道路などを活用し、……風を都心に導く「そよ風の道」を形成することにより、夏に都心に滞留する暑い空気の塊(ヒートアイランド現象)を緩和するなど、特別なエネルギーやコストをかけずに都心環境を改善することが考えられます」
 そして「そよ風の道」を形成するために公園や緑地の整備はもちろんとして、そのほかに「都心の建物や人工地盤には、屋上緑化や壁面緑化の手法を取り入れる」よう提案している。
 経済優先の都市づくりがいかに脆弱かは、今回の阪神大震災を持ち出すまでもなく明らかだろう。「環境にやさしい」という言葉はあらゆる個所で使われているが、内実は相変わらずの経済優先で、環境云々はそれに関係ない個所や部分でのみ語られているような気がする。個々の建築物においてもしかりで、デザイン優先、効率優先の建物ばかりが幅を利かしている。
 「建物全体で熱エネルギーを消費しないようにという考え方がまだないのが残念です」と片山教授も嘆くように、本当の意味で「グローバル」な考え方が待たれている。




参考画像.A 1kmメッシュ内の自然地被率と気温の関係
参考画像.B 国土数値情報に基づく福岡市の土地利用分布
参考画像.C 小倉都心地区・重点整備計画<パンフ>
参考画像.D 海風時と陸風時の気温分布(夏季の昼間)


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