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「未来を拓く九州のテクノロジー」講演概要

 5月23日(月)、福岡県工業技術センタークラブ主催の先端技術シンポジウム「世界にはばたけーものづくり福岡ー」が開催された。
 その席で私、栗野も「未来を拓く九州のテクノロジー」と題して講演をした。
当日出席できなかった方のために概要を紹介すると−−。

 当日の内容紹介とレジュメは以下の通り。
 半導体産業、自動車産業の集積など、九州のモノづくり環境はかつてないほど恵まれ、世界を相手にする最先端技術も育っている。しかし、その一方で中国企業の激しい追い上げにあっているのも事実。では、生き残りのために何が必要なのか。
 1.恵まれた九州のモノづくり環境
 2.中国企業の激しい追い上げ
 3.生き残りのために何が必要か

 いま北部九州は自動車産業の集積が進み、モノづくり環境には恵まれているが、トヨタ自動車が進出してきた約10年前は首都圏の地価高騰、人件費アップという背景があり、あたかもバケツの水が溢れるように地価、人件費の安いところを求め、地方に進出していった。その一つが九州であり、九州の実力で自動車産業を呼んだのではない。
 ただ、最近は地場企業の技術力もアップしてきた。そこにもってきてトヨタ自動車も4年程前から現地調達を進めるなど、現在は恵まれたモノづくり環境である。

 北部九州の企業はこの恵まれた環境に安住している側面がありはしないか。
九州という範囲で見ると、むしろ環境的には北部九州より劣る地方に技術力・開発力に優れた企業がある。
 例えば長崎県の最西端、北松浦郡小佐々には水に関する研究・技術では日本一の企業、西日本流体技研がある。いま、水泳は水着競争と言われるように、いかに水の抵抗が少ない水着を作るかが繊維メーカーの仮題になっている。水の流れや抵抗の詳しいデータを取り、記録を出す水着づくりに貢献しているのが西日本流体技研だ。
 同じく長崎県で、雲仙普賢岳の麓、見渡す限りの畑の中に半導体製造装置や液晶製造装置などの精密加工部品を製作している公精プラント製作所がある。

 また宮崎県日南市には、ボーイングジェット機の内装や国立劇場オペラ座の音響板を製作した日南家具工芸社がある。
 これらの企業に共通しているのは、絶対に「できない」と言わないことだ。常に技術力を磨き、難しい仕事にチャレンジし続けている。
 このように恵まれない環境の中でも頑張っている企業がある。恵まれた環境の中にいる北部九州の企業はもっと頑張らなければならない。

 もちろん、福岡にも第一施設工業のように非常に頑張っている企業もある。
同社は半導体の大見忠弘氏が必ず社名を上げるほど高い技術力を誇っているが、元はエレベーターの据え付け・保守作業をしていた下請け企業だ。
 ところが、ある時、元請け企業からいきなり見積書の数字を赤鉛筆で訂正された。
そのことがよほど悔しかったのだろう。絶対、メーカーになってやる、と誓い、その後一生懸命に頑張った。屈辱にうちひしがれる人もいるが、同社の篠原社長は屈辱をバネに変えて這い上がった経営者だ。
 もちろん、メーカーになると念じればなれるわけではない。ヒントは客が提供してくれるので、ユーザーのひと言を聞き漏らさず、それをいかに実現するかだ。ユーザーが困っていることを解決すれば必ず商品は売れる。

 半導体産業が進出してきた時にも言われたことだが、九州の企業は熱しやすく冷めやすい。最初は仕事を求めてくるが、一度断られると二度と来ない。
 半導体にしろ自動車にしろ裾野が広い産業であり、ハイテク分野ばかりでなくローテク分野の仕事もある。一つひとつ技術力を高めて、仕事を奪い取っていく努力をしなければならない。

 三河(愛知県)の人間と比較すると九州の人は出世欲、負けず嫌い精神に欠けると指摘されたが、恵まれた環境に安住していると、中国に仕事を取られてしまうだろう。
 中国の技術力や生産力、品質アップは目覚ましく、3年で日本と並び、5年後には日本は追い抜かれると言われている。

 では、中国に対抗するためにはどうすればいいか。
一つは今以上に技術力を高めなければならない。
そのためには産学官の連携を図ることも重要だし、国・県・大学等の研究機関を上手に活用する必要がある。
 各研究機関の方には「来れば教えてやる」的な態度ではなく、中小企業の現場に出向いて指導して欲しい。
 中小企業は公設試や大学と共同研究・開発をする場合、契約書を交わすようにした方がいい。
なぜなら公設試や大学と企業では流れる時間の速さが違うからだ。
だから、いついつまでに、どこまでする、ということをきちっと決めて行わないと、せっかくの共同研究・開発が実のあるものにならない。

 もう一つは製造現場の効率化を図ることだ。
ある人が松下の下請け企業に仕事を頼んだら見積書が何銭の単位だったと驚いていた
が、トヨタ自動車の話にもあったようにトヨタが買う価格がボルト1本2円。だとすれば下請けが納品価格は何円何銭である。
大手がここまでシビアなコスト計算をしているのに、九州の中小企業は甘すぎる。
競争力をアップするためにはもっとコストダウンを図らなければならない。

 では、コストダウンを図るためにはどうすればいいのか。
すぐ人件費の削減と言うが、安易な人材整理は危険だ。
いま2007年問題が言われているが、2007年から団塊の世代が定年を迎え出す。そうすると社内の優秀な技術を次世代に受け継いでいけなくなる。
技術・技能の伝承をどうするのか。そのためにも人件費のカットを目的にした安易な人員整理は危険だ。もう少し長期的な視野で物事を見ていかないと生き残っていけない。

 コストダウンを図るためには生産効率を上げることを考えた方がいい。
トヨタ生産方式に代表されるようにムダ、ムラをなくすことだ。
トヨタ生産方式というとすぐジャストインタイムの下請けいじめというイメージがあるが、そうではない。
 むしろ動きのムダ、在庫のムダをなくそうということで、中小企業でも大いに学ぶべき点は多い。
 リエゾン九州では中小企業の生産効率アップのために、製造現場に出向き、トヨタ生産方式等で現場指導をするプロジェクトチームを設立しているので、希望があれば連絡して欲しい。

                   (2005年5月23日、福岡県工業技術センタークラブで講演)


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