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40ミクロンの細穴加工を可能にした超音波加工機

株式会社岳 将  代表取締役 岳 義弘
福岡県春日市須玖南6−149−2 / tel 092-501-7434

 「大企業から小さな商社まで、特殊な加工の依頼は全国からきますよ」
 世界初の40キロヘルツ超音波加工機を開発・製造・販売している滑x将(福岡県春日市須玖南6−149−2、資本金1,400万円)の岳(たけ)義弘社長はこう言って胸を張る。

硬脆性材料の微細加工に挑戦

 同社は昭和56年に機械工具の仕入れ販売会社としてスタートし、翌年には素材の表面を鏡のように研磨するラップ盤を購入してラッピング加工の分野にも進出。さらにその翌年には米国企業から超音波加工機を購入し、硬脆性(硬くて、もろい)材料の微細加工に取り組み始めている。ちょうど半導体産業が急成長し、ファインセラミックスやシリコン、超硬合金などの新素材が大いに注目を集めていた時期である。
 セラミックス等の新素材は軽くて、硬さや粘性に優れた特徴を持っている反面、加工しにくいという欠点がある。ところが半導体産業の成長につれて、硬脆性材料の用途が拡大し、ますます微細加工の要求は強まるばかりである。
 硬脆性材料の加工に使われるものにはレーザー加工やダイヤモンド加工もあるが、レーザー加工は熱で溶かすという性質上、穴の入り口と出口の直径が異なるという欠点がある。一方、ダイヤモンド加工は例えていえば力任せにノミで氷の表面を削り取るようなもので、加工面に無数のクラックが発生したり、加工面と工具の間に切り粉が詰まり、摩擦熱で加工面が高温になるなどの欠点がある.
 対して超音波加工は少しずつノミを打ち付けながら削っていく方法に似ており、「材質に対してソフトに当たる」ため、加工面にクラックが発生しにくい。また超音波による微振動が工具に上下の振幅を加え、工具は加工面に接触、非接触を連続的に繰り返すから切り粉の排出が容易になり、目詰まりが少ないという特徴がある。
 ところが「当時としては高価な設備を導入した」にもかかわらず、20キロヘルツ超音波加工機は期待を大きく裏切り、加工精度はよくなかった。微妙に穴の大きさがずれたり、縁が欠けたり、切り粉が詰まったりと、まるで使い物にならなかったのだ。なにより同じ品質のものができないのが致命的だった。開発間もない製品だけにメーカーの対応も思うに任せない。 

世界初の40キロヘルツ超音波加工機を開発

 本来ならこの時点であきらめるべきかもしれない。だが、岳氏は逆に闘志を燃やした。「よし、それなら自分で作ってやる」と。
 それから、くる日もくる日も超音波加工機との格闘が続いた。専門書を読みあさり、超音波の勉強もした。その結果、刃先の振動周波数を上げれば加工精度が向上することが分かった。周波数を20キロヘルツから40キロヘルツに上げる。40キロヘルツは人間の耳に聞こえる可聴域の境界20キロヘルツをはるかに超えているから音も聞こえなければ、振動の様子も見えない。周波数の状態を把握するには計測器に頼るしかなかった。
 「最初の頃は超音波のことをよく知らなかったんです」と語る岳氏。理屈は分かってもその通りにいかないのが技術の世界である。手探り状態の開発を続け、2年後の平成元年12月に40キロヘルツ超音波加工機第1号を完成。翌年1月に熊本県工業技術センターにNC超音波加工機を納入。
 だが、これで完成ではなかった。超音波の出力を長時間同一に保つにはどうすればいいか、工具の振れは、工具が持つ熱を放出する方法は、などまだまだ解決しなければならない課題は多かった。それらを一つひとつ時間をかけてクリアしていった。
 「超音波振動を制御するのが難しかったですね。振動しすぎると工具が壊れますから」と岳氏は当時を振り返る。

加工技術センター開設

 平成5年5月、ついに「URTーVシリーズ40キロヘルツスピンドルユニット」を開発。実用第1号機の誕生である。
 @加工抵抗が少ないため加工精度が向上するとともに加工速度も向上するなど高効率の加工が可能A工具の耐性がよく、長時間使用が可能B切り粉の目詰まりがないC超音波騒音がないからノイズ対策が不要D市販の工具が使えるE超高速回転スピンドルに比べ電気消費量が3分の1〜5分の1と経済的、などの特徴がある。
 現在、NC制御40キロヘルツ超音波加工機5台、超精密ポリッシュ盤、精密平面研削盤、マイクロスコープ(1000倍)等を設置した加工技術センターを開設し、本格的な受託加工を開始している。さらに研削物に応じた工具の製造・販売も実施中。40ミクロンの穴開けや溝入れ加工まで可能であり、すでに半導体や光通信、電子部品業界などからテスト加工の依頼も数多く寄せられている。

地場企業との技術協力を模索

 こうした技術をベンチャーキャピタルが見逃すはずはなく、平成5年にテクノベンチャーから誘いがあった。子会社のテクノリンケージで九州以外の全地域と海外での販売・受託加工を行いたい、と。しかし、バブル崩壊直後ということも影響したのか、それとも他人任せではうまくいかないということなのか、いずれにしろ当初見込みを大きく外れ、販売実績を残すところまではいかなかった。9カ月後には岳氏の方から提携解消を申し出た。
 「超音波加工はあらゆる加工に取って代わるものではありませんが、ある分野では非常に強い力を発揮します。九州工業技術研究所ではこの加工機械を使って新素材の加工実験をしていますし、九州大学では従来の材料を使って新しい加工領域を切り開く実験をされています。今、用途は確実に拡大しつつあります」
 むしろ勝負はこれからだと言う。現在、申請中のものも含めると特許は20件。「特許が生きている平成21年までに差別化をしておきたい」と岳氏。そのために今後は加工機の輸出も行う予定。
 また地場企業の技術力アップのためにも同社の加工機を利用してもらいたいし、できれば地場企業とタイアップして仕事をしたいと熱く語る。ライン機として活用しやすいように、今後加工機の販売価格を下げる努力もしていく予定。
 「将来は加工センターをさらに拡充して、別組織にしたいという構想を持っています。その時は社員の中から代表者を選び、後を任せたいと考えています」 


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