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魚肉・畜類肉の高度利用を可能にし、人類に貢献する
フードイノベーション「スーペルバ処理法」を開発


鰍ゥたやま
北九州市若松区頓田2992-30  TEL 093-741-5565

 テクノロジーイノベーションは常に最先端や未知の分野からのみ起こるとは限らない。時にはローテクや知りつくされた分野からも起こる。しかも、それらは基礎技術がしっかりしているから、ひとたび世の中に現れれば世界で通用する技術になることが多い。鰍ゥたやま(北九州市若松区頓田2992-30、片山寂社長、tel 093-741-5565)が開発したスーペルバ処理法もそんな技術である。

軽くかけるだけで並肉が特上肉に
レストランの売り上げが2割増


 「ちょっと食べ比べてみませんか」
 そう言うと、片山氏はテーブルの上に広げた書類を隅に押しやり、ホットプレートの上にスーパーで買ったというパック入りの肉を乗せて焼き出した。一つは買ってきたままの肉で、もう一つは同社が開発した「スーペルバ調味液」をかけた肉だ。こうして客に食べ比べをさせるのが氏の常だった。多少のパフォーマンスはあったかもしれないが、論より証拠。相手が肉だけに文字や口頭での説明よりもはるかに説得力があった。
 勧められるままに筆者も肉を口にしてあっと驚いた。まるで手品でも見せられたような感覚に襲われたからだ。二つがまったく同じ肉なのは間違いなかった。それなのに片方が並みなら、もう一方は上か特上肉ぐらいの違いがあった。もちろん「スーペルバ調味液」をかけた肉の方が格段においしかったのは言うまでもない。驚きはそれだけではなかった。火を止めると普通の肉は急速に固くなり食べられないが、「スーペルバ調味液」をかけた肉は冷めても軟らかいままだったのだ。
 こちらの反応を楽しむように眺めながら、「焼いた後、肉が縮まらないでしょ。あれだけの水分をかけていたのに水気が鉄板の上に出ないでしょう」と片山氏。なるほど、言われてみればそうだ。調味液をかけて染み込ませているのに、鉄板の上に肉汁が出てないのだ。「肉汁を包み込んでいるからおいしいのだ」と氏は言う。
 「私は沖縄が好きでよく行くんですが、ピザハウスというレストランを県内で10数店展開している店があります。ところが、ここの肉が硬い。それで話をしたら、じゃあ使ってみましょうということになり、この5月10日に契約したのです。それで使い始めてから1カ月半後に売り上げが2割アップした、と言ってお礼に来られましたよ」
 最近では、うわさを聞きつけたブロイラー業者や大手食品メーカーからの問い合わせが相次いでいるという。実際、取材当日にも帝国ホテルの外販事業部から「新聞記事で見たので、肉類を軟らかくする商品の資料を送って欲しい」という問い合わせFAXが入っていた。

最盛期には10億円の売り上げ
オキアミを1船買いしたことも


 ところで商品名のスーペルバとは「オキアミ」の学術名のこと。オキアミとの出合いで今回の技術が生まれたことからそうネーミングしたのだった。
 片山氏がオキアミに出合ったのは今から30年近く前。ホンダモーターのディーラー・八幡ホンダを経営していた頃である。
 「ちょうど鈴鹿サーキットができた頃で、ホンダから見学に呼ばれた帰りに琵琶湖に立ち寄ったんです。川魚問屋を覗くと淡水エビが1升70円で売られていた。当時、九州では1升3,000円前後していたから、これは商売になるとひらめいたので冷凍して持って帰ったわけです」
 漁場に行ってエビをまくと「入れ食い」状態で魚が釣れた。余ったエサは再び冷凍して保存。まだ、釣りエサを備蓄するという考えなどない頃だけに、このアイデアは画期的だった。
 「早速、車を1台保冷車に造り替えて滋賀まで仕入れに走った。売れるなんていうものじゃない。持って帰らなければ吹き飛ばされるぐらい怒られるわけですから」
 最盛期には10億円売り上げていたという。もともと「メーカーにならなければ自由はない」という想いが強かったこともあり、ホンダのディーラーをやめて釣りエサ業に業種替えをする。その後、沖縄を始め各県下に営業所を出すなど幅広く事業を展開していく。南極のオキアミを「1船買い」したのもこの頃である。それほど儲かった。「当時、従業員は200人いましたし、備蓄用の冷蔵庫にしても6,000tのものをもっていましたから」。ところが、好事魔多しとはよく言ったもので、儲かる市場だと見られれば新規参入が相次ぎ、競争が激化するのは今も当時も同じである。水産会社まで釣りエサ卸業に参入してきたため、あっと言う間に値崩れを起こし、同社の資金繰りも急速に悪化していく。結局、会社を清算し、出直しを図ることにする。

世界24カ国に特許出願
スーペルバ処理技術


 当時、国が将来の食料不足への対応としてオキアミの食品化研究を進めていたこともあり、片山氏も釣りエサを売る一方で、各大学の水産学部や食品加工の専門家の指導を仰ぎ、オキアミの食品化に向けた研究に早くから取り組んでいた。その頃からの研究が実を結んでくることになる。オキアミの生臭さを取り除く技術の開発に成功したのだ。これがもとになり画期的な技術「スーペルバ処理法」が開発されていく。
 現在の技術開発に成功したのは6年前。最初の取り組みから数えれば約30年である。それまで各地に持っていた工場用地を売却した資金で研究費を捻出しながらの研究開発である。並みの信念ではここまで取り組めない。「世界の海産、畜産動物肉を高度利用し、高品質で栄養価の高い、人類に貢献する革新的な技術」を開発するという信念と、「メーカーになる」という強い想いなくしてはここまでこれなかったに違いない。これこそがベンチャースピリッツであり、成功するベンチャーに共通しているのは、こうした熱い想いを抱き続けていることである。
 「地球資源の問題から言っても海産資源を有効に活用するのが一番いい。ところが、現在は人間の都合がいい魚や都合のいい部分だけを使って、後は捨てているわけです。それらを全部有効に活用できれば一番いいわけで、それを可能にしたのが当社の技術なんです」
 片山氏が着目したのは次の4点である。
 1.魚肉や畜類肉の成分を外に出さずに閉じ込める方法はないか。
 2.魚肉を加工しやすくするためにゲル化(のり状)が必要だが、その場合にいかに塩分を減らすことができるか。
 3.有害な添加剤を一切使用せず、安全性の高い高品質なものが作れるか。
 4.冷解凍時に組織変性をなくすにはどうすればいいか。
 これらのことにチャレンジするために徹底的に専門書を紐解いて研究を重ね、専門家の意見を聞いて回った。そうして開発したのが「SP(スーペルバ)処理技術」である。現在、国内外24カ国に54件の特許出願を行い、すでにアメリカをはじめ10カ国で特許取得済みである。

肉汁を閉じ込め、うまみを増す技術

 同技術を簡単に説明すれば、次のようになる。
 肉はたくさんの筋組織で構成されているが、その筋組織は非常に数多くの筋繊維が束ねられた筋束と、筋束を覆う筋鞘(さや)で構成されている。肉類を冷凍すると品質が落ちるのは、この筋鞘が温度変化で収縮するからである。解凍すると筋鞘が伸び、うまみ成分のドリップ(肉汁)がこぼれ出てしまう。
 それを、人体に無害な「高濃度食塩水および高濃度アルカリ剤溶液」等で構成された調理液を肉に染み込ませることで、肉質の劣化を防ぎ、うまみ成分が流れ出るのを防いだのである。
 また、従来の練り製品製造法では水さらしを何度も繰り返し、高い塩分で肉を溶解することでゲル化(肉のり状)していたため、うまみ成分は流出し、肉の歩留まりも悪かった。ところが、同社が開発した処理法では水さらしを一切行わなないためうまみ成分の流出がないばかりか、塩分も低い練り製品が作られる。特に鶏肉などは低利用の胸肉だけをすり身にして薩摩揚げをつくると低塩のおいしいものが作れる。これこそ21世紀のフードイノベーションと呼べる技術といえる。


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