N の 憂 鬱-19
〜夜明けに襲撃してきた防共挺身隊(1)


Kurino's Novel-19                    
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Nの憂鬱19〜夜明けに襲撃してきた防共挺身隊
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▽強行採決で大学立法成立

 8月3日、参議院で「大学運営臨時措置法(大学立法)」が強行採決された。そのことへの激しい怒りとともに、あれだけ全国の大学で学生、教職員が反対の声を上げたのに一顧だにもされず、数を頼りに強行採決で大学立法が制定されてしまった無力感とその後に来る虚しさが大学全体を覆っていた。

 当面の目標を失った時、集団はいくつかの流れに分かれる。
 1.運動を激化する流れ
 2.一度立ち止まり、それまでの運動が抱えていた問題点を再検討し、
   運動の再構築を図ろうとする流れ
 3.諦念感を覚え運動から距離を置く流れ

 すべてがこの3つの流れにきれいに分かれるわけではなく、互いに重複していたり、各流れを行き来したりする。また、1や2の流れの中でもいくつかのグループに分かれたり、それぞれが複雑に絡み合っているが、1の流れは強硬派と言ってもよく、主として各セクトや、ノンセクトの中でも過激なグループに多く見らる。
 2は1と似通っているが闘争の進め方を巡る理論闘争が顕在化し、力の方向が外ではなく内に向かい内部対立を生んでいくのは国や歴史、組織を問わずよく見られる現象だ。

 E大は他大学で見られたようなセクト間の対立、内ゲバは見られず、反権力で一致し、協力し合って事に当たっていたのは全国的に見ても数少ないのではないかと思われる。
 なぜ、そうなのか明確には分からないが、元々保守系色が強い地域という土壌的なものと、戦後に新設された新制大学だけに文部省の顔色を窺いながら大学運営が行われていたこともあり、入学してくる学生もそういう環境に合ったのか合わせたのか比較的小ぢんまりとしたおとなしい若者が多かった。
 そんな中で20人前後でデモを行ったり、ビラを配ったりしていた「活動家」は互いに顔をよく合わせているため仲間、身内意識があったし、運動の拡大とともに新しく参加したり中核派で活動をし出した者がいても、上級生の「古参」活動家に対等にモノが言える雰囲気はなかった。
 また、少人数であるが故に仲間内で揉めれば敵を利するだけで、それより協力し合って敵に当たろうという意識も働いていたと思われ、内ゲバはもちろん、新左翼系内部での対立もなかった。

 強行採決を受け全国的に抗議集会やデモが行われたが、E大と、隣接する私立のM商科大の教官など有志で構成する日本科学者会議E支部とE県大学人会も次のような抗議声明を発表した。
 「強行採決は審議を通じて問題点を国民の前に明らかにしていくという国会の基本的役割を否定するものであり、議会制民主主義に対する暴挙であり」「採決不法無効であり、法律の実施に対してはその実行を阻止して大学の自治と学問、思想の自由を粘り強く進めて行く」

 強行採決翌日の4日、愛誠会も市内デモを敢行したが、夏休み中ということもありデモ参加者数は少なく、あまり気勢は上がらなかった。それでも今後は大学立法の実質化阻止に向けた闘争を引き続き継続していくことを確認し、その日は散会した。

 夏休みが明けた9月以降、学内の動きは急だった。大学当局は大学運営を平常に戻そうと、まず7月に行われた5日間の授業放棄ストで失った講義時間を補講を行うことで埋めようとした。
 それに対して全共闘系はビラで次のように「補講粉砕闘争」を呼び掛けた。

 我々は大学立法をとりわけ大学の管理支配の問題だとして捉え、現実の管理支配の実態を解明しようとした。そして現実の管理支配が「体制イデオロギー」と「労働力商品」の再生産機構の<秩序>維持のためのものであることを主張してきた。であるならば大学立法−管理支配強化とは学内秩序強化そのものだといえる。
 だからこそ我々の大学立法粉砕闘争は<授業>という日常の学内秩序そのものを拒否したストライキ闘争として闘われたのであった。<授業>こそが学内秩序の基礎をなすものである。
 従って<授業>に出席制、単位制といった制度がつきまとい我々に<授業>を強制するのである。これこそが大学の管理支配者の本質だ。


 一方、全共闘に対立する日共系民青は民主化行動委員会という名の組織を立ち上げ、学内右翼や大学当局と一体となり「暴力学生排除」「授業妨害を許すな」と主張し、全共闘系と激しく対立しだす。
 本来、右翼と共産党系組織は思想的に相容れず対立していたはずだが「反新左翼」「学内民主化」で共同歩調を取り、共闘したのは奇妙としか言いようがない。

 この頃になると文理学部自治会・愛誠会執行部3役は中核派であると自ら明らかにし、ノンセクト・ラジカルから中核色の強い衣へと着替えた。

 9月11日深夜、大学正門前の大きな立て看板が何者かの手で破壊された。破壊されたのは全共闘、愛誠会のものだけでなく教育学部自治会や民主化行動委員会の立看板まで含まれていたが、破壊行動を起こしたのは工学部に巣食う右翼学生によるものだと目撃した学生の話があり、その日以降15日まで寝ずの番をして全共闘、愛誠会は「立て看死守闘争」を展開。

 9月17日夕、全共闘と愛誠会は共同で大学立法・安保粉砕集会を教養学部大講義室で開催すると、対抗するように同日同時刻に民青系を中心とした民主化行動委員会も教養学部201教室で総会を開いた。
 同日同時刻に開催というのはそれ以前には見られなかったことであり、それだけ民青系が力を増してきたということでもある。
 その1か月近く前の8月に県内新浜市に防共挺身隊という右翼の青年組織が結成され、彼らが何らかの行動を起こすらしいという噂も流れた。
                             (2)に続く
 


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