▽学長が教職員等に「逆封鎖」を指示
「正門を閉めろ!」「机や椅子を持って来て積み上げろ!」「おう、民青の立て看はぶっ壊して、そいつもバリケードに積み上げようぜ」
ゲバ棒を担いで学内デモを行った勢いで、大学正門まで駆け足で行き、あっという間に正門にバリケードを築いた全共闘は、数日前の衝突で殴られ、押し返された仕返しに全共闘が襲ってくるのではないかと身構え、遠巻きに見ていた民青の連中の前を威嚇しながら駆け足で通り過ぎ法文館に駆け込んだ。
内部に残っていた連中と協力して1階にロッカーや机、椅子などを積み上げてバリケードを築き、さらに2階に通じる階段にも机や椅子を積み重ねてバリケードを築いた。
後は立て籠りを主張した中核派を残して、それ以外の者は法文館から退出する予定だった。ところが民青の動きは素早かった。
彼らは「暴力反対!」を叫んでいた頃の「民主化」の仮面を自ら脱ぎ捨て「力には力を」と、全共闘のゲバ棒には彼らもゲバ棒を所持して対抗するようになっていた。
しかも学内の民青部員だけでは数が足りないと考え、組織を動員して学外から民青部員をE大生の振りをして学内に紛れ込ませていた。そこに体育会系右翼や野次馬的な学生などが加わり約100人が法文館を遠巻きにしている。
この状況は中核派以外には予想外だった。彼らはバリケード構築後、校舎から速やかに退去する予定だったが反対派によって包囲され、逆に閉じ込められてしまった。逆封鎖である。
何度か1階から外に出て囲みを突破しようと試みたが、その度に投石を受け、殴られ、蹴られたりし、彼らの包囲網を突破することが出来ず、否応なく法文館内に押し込められた格好だ。
夕方近くになると教職員30人程も加わり、法文館前の人数は数100人に膨れ上がり「中にいる学生諸君は出てきなさ〜い」と教職員がマイクで呼びかけると、「バリ封鎖ハンターイ」「暴力学生は出て行け〜」と民青の連中がマイクでがなり立てる。
民青のやり方は巧妙で、それと分かる形で暴力の行使はしない。だが、教職員の目に触れない(見ていない振りをしている)所では大勢で取り囲み殴る蹴るの暴行を加え、どちらが「暴力学生」か分からない。
過去の歴史を振り返るまでもなく、籠城組に残された道は徹底抗戦しかなくなる。形勢は圧倒的に不利だ。だが有利な側が包囲網を緩めたり、退路を開けることはまずない。結局、籠城組に残された道は全面降伏か玉砕かだ。
しかし、包囲網を敷いた側が約束を守ることはないのは過去の歴史が示す通りだ。どちらにしても命の助かる保証がないなら、徹底抗戦するしかない。
この考えは戦国時代から旧日本軍の戦いに至るまで通じている。いや、洋の東西を問わず似たようなもので、ウクライナで、パレスチナで同じような戦いが行われている。
バリケード内部にいる全共闘系の学生は30人余り。対して包囲している側は数100人。力は圧倒的に包囲側が有利だ。
それを見て彼らは次の行動、封鎖解除に出たが、それを示唆、後押しし、煽ったのが誰あろう学長の熊山で、彼は包囲陣を敷く学生達を前に次のように演説した。
「全教職員は一致して次のように決めました。いわゆる全共闘の学生が封鎖している法文学部本館を教職員が逆封鎖する。逆封鎖とは建物内に全共闘の学生が入ることも出ることも、さらにはその他を外部から差し入れることも実力で阻止することです。
そして、もし建物の中にいる全共闘の学生が外に逃げ出す場合、これは諸君に頼んでも無理かもしれないが、教職員はこれを捕らえることにしている。
その上、法文本館の封鎖を解除したいが、望ましい方法は教職員と諸君の一致した精神的圧力のみを用いるのが望ましいとは思っていますが・・・、しかし、ものにははずみがあって、実力で自主解除しようと考えるものがあってもやむを得ない。
この場合、危険でけが人が出ると思うので注意して欲しい。
力による自主解除で本格的内ゲバが起こった時は、警察が自己の判断で大学構内に入って来るだろうから、最悪の場合は、大学当局の判断で警察力の導入もやむを得ないと考えています」
なんとも驚くではないか。どこぞの私立大の理事長の言葉ではなく、曲がりなりにも国立大学の学長が、バリ封鎖反対派の学生に、実力によるバリケード封鎖解除をけしかけているのだ。
「逆封鎖する」という言葉まで使っているから、立て籠もっている学生を建物から退去させるのが目的ではなく、力による制裁を加えることと、機動隊の学内導入が目的になっている。
これに対し、民青など一部の学生は「教職員が逆封鎖する」「全共闘の学生が外に逃げ出す場合、教職員はこれを捕らえることにしている」と学長が演説した箇所で拍手をして歓迎しているのもおかしな話だ。
彼ら民青は民主化行動委員会の名で「一般学生」を集めて開催した集会で「民主化5項目要求の実現」を大学側へ要望する決議をしたが、5項目要求の1つに「学内問題の処理の手段として警察力を導入しないこと」という項目が入っている。
熊山学長の演説内容はこのことに明らかに反しているはずだが、彼らは一切異議を唱えることなく、学長の方針に賛成した。
(8)に続く
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