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「1000円高速廃止について」
〜FMラジオ・ベイFMのインタビュー〜に答える


 いよいよ6月20日0時を持って「1000円高速」「無料化社会実験」が廃止され、代わりに「東北地方の高速無料開放」が始まる。歓迎する向きがある一方、廃止に異を唱えたり、戸惑いを覚える人もいるようだ。
 そこで今回は「1000円高速」廃止が及ぼす影響について、「ベイFM」からのインタビューに答える形で行った内容を再現しながら書いてみたい。
 (実は1か月ほど前、「納得できない、高速料金1000円廃止」と題してブログに記事をアップしていたが、数日前千葉県のFMラジオから出演依頼のメールが届いた。本日7時半に生放送出演。本稿はその時のインタビューを元に編集)


 ベイFM:早速ですが、この「高速道路休日上限1000円廃止」のニュース、利用していた方は多いと思うんですが、まだ結構、知らない方も多いように思いますが、どこに問題があると思われていますか。

 栗野:廃止になるのかとなんとなく思っていても、はっきり20日から廃止になると知っている人は案外少ないのではないか。
 一応、日本道路交通情報センターのHP等には載っているが、「東北地方の高速道路の無料開放について」の項目の後に「高速道路の料金割引及び無料化社会実験について」があり、そこに「6月20日(月)午前0時より、上限料金制(休日1,000円)が廃止され、無料化社会実験についても一時凍結される」とサラッと記されている。
 これではなかなか周知徹底されないだろう。もう少し他の媒体、例えば新聞、TV、ラジオ、特にドライバーはカーラジオを聞いていることが多いだろうし、そういった媒体を使っての告知がされてないのが問題だ。
 とりわけ中高年は、インターネットよりアナログ情報から情報を得ていることが多いから、今回のことに限らず大きく制度を変更し、広く告知する必要がある時は告知媒体も幅広く使うべきだ。


 ベイFM:そもそも1000円にしたのは地域経済活性化の社会実験のためでしたよね。その辺りは検証されたんですか?

 栗野:制度を変える場合、重要なのは結果をきちんと検証することだ。
しかし、1000円高速廃止に当たって、そういう検証がなされた形跡はない。
さらにひどいのは高速道路を無料化するための社会実験ということで一部地域の一部区間で高速道路が無料化されたが、その結果、交通量は増えたのか減ったのか。
 増えたとすれば何倍になったのか、経済効果はどの程度あったのかなどの検証がきちんとなされていない。
 実験という以上、導入前後で何がどう変化したのかは絶対検証しなければならないはずだ。この社会実験区間にしてからが、そもそもどういう基準で選ばれたのかさえ明確でない。スタートがこういうことだから、廃止の時の検証もなしではあまりにお粗末すぎる。

 ベイFM:今回の震災の被災者の方々の近くの高速は、被災者の方々やバス、トラックなどは引き続き無料となりますが、やはりマイカー客が集まっていた観光業には痛手でしょうね。

 栗野:この問題は2つに分けて考える必要がある。
 1つは東北地方の高速道路が被災者に無料開放される点。
これは歓迎すべきことだが、いくつかの条件を満たす必要がある。
まずETCレーンが使えないこと。一般レーンを通行しなければ無料にならない。
しかも被災者・罹災者である証明書の提示が必要。この証明書を持参していなければ無料にならないわけで、ややこしい。うっかり忘れたということもあるだろうが、その場合は無料通行が適用されず、一般料金での通行になるから注意が必要だ。
 制度はシンプルでなければいけない。
東北地方の高速を無料にするなら誰でも無料にすればいい。そうすれば車で東北観光に行く人も増えるだろうが、被災者・罹災者以外は無料化対象外だ。そうすると高い高速料を払って観光に行く人がどれぐらいいるだろうか。
 しばらくは料金所で混乱が続くだろう。

 2つ目は廃止によるマイナスの影響。
地域経済や観光業界にとっては広域からの集客が望めない。観光客は減少するだろうから、その分経済的効果はマイナスになる。
 1000円高速導入後、何が大きく変わったかというと、人の移動が広域になった、エリアをまたいで移動するようになったこと。
 例えば関西圏の人が中国・四国へ、九州から関西圏へというように。
私は月に1、2度福岡から九州自動車道〜中国自動車道を約500km走って兵庫県近くまで行っているが、1000円高速導入前と後では中国自動車道の交通量は目測で3〜5倍に増えたし、途中のサービスエリアも随分賑わってきた。
 それだけ観光地には広域から人が集まっているわけで、これが廃止になれば観光業界にとって大きな痛手なのは間違いないだろう。


 ベイFM:被災地のことを考えると1000円高速廃止による実質値上げも仕方ないかなと思いますが、それが即、震災復興財源に当てられればいいんですが、その辺りがかなり不透明が気がするのですが。

 栗野:道路特定財源が一般財源化されたので震災復興財源にも回せるが、高速値上げ分がそのまま震災復興財源に回るかというとそうはならないだろう。あくまでも一般財源の中に組み込まれ、その総額の中から震災復興にも使われるということだ。

 今回の1000円高速廃止で問題だと思うのは東北エリア外の人に東北高速無料化が適用されないこと。
 もし、東北高速が無料となれば東北に観光に行こう。そのことで東北を応援しようという人が増える可能性はある。
 もう1つはボランティ活動で東北に入る人。ボランティは週末を利用して行く人が大半だと思うが、いままでなら1000円で九州から東北まで走れたものが、高速料金だけで何万円かになる。そうなるとボランティアをしたいという気持ちはあっても、現実問題として行きにくくなる。

 震災から3か月がたち皆の関心も徐々に薄れていく傾向にあるが、まだまだ復興どころか復旧も進んでいない地域もあるし、これからは様々な形のボランティアが必要になってくる。特に今の政治の状況を見ていると、国に任せるよりは自力で、自分たちで何とかした方が早いという部分もある。そういう時にボランティアの協力が必要になる。
 上限1000円なら行けるが高速料が1万円以上となると行きにくくなるだろう。その辺りをもう少し考えて欲しかった。


 ベイFM:震災復興が落ち着いたら、また休日1000円を再スタートしてほしい、という声も多いようですが、再開はあり得ますか。

 栗野:民主党政権は高速無料化をマニフェストに掲げて政権交代を果たしたのだから、本来は無料化すべきだが、現実問題として無料化はないだろう。
 では、すべて1000円にするか休日1000円高速を復活するかとなると、いまの政府の動きを見ていると可能性は薄い。
 個人的には休日1000円でなくても2000円でもいいから、土日祝日の上限料金制を復活すべきだと思うが、廃止にしろ復活にしろ必要なのはきちんとデータを取り、それを検証して決めること。そうした科学的、民主的な手法をとるべきだ。そして議論と決定の過程を国民にオープンにすること。



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