日本の製造業はなぜ衰退したのか(7)
〜マーケティング力が問われる


マーケティング力が問われる

 ところでカシオである。同社は冒頭でも書いたが先進的かつユニークな企業である。とりわけデジカメの発展は同社の貢献抜きには語ることができない。この9月に国立科学博物館の未来技術遺産に登録された「QV-10」をはじめ、カードサイズのデジカメ、自分撮りができるデジカメ、快速スピードデジカメ、女性ユーザーをターゲットにした、かわいいデザインのデジカメなど、常に時代をリードしてきた。カードサイズのコンパクトなデジカメなどはいまでも欲しいくらいだが、カシオは不思議なことにマーケットを追っかけない。一つ市場を追っかけたのは高速起動、高速連写、高速AF(ピント合わせ)が売りのハイスピードEXILIMシリーズぐらいではないだろうか。

 なぜカシオは売れるマーケットを追っかけないのか。その最たるものが冒頭に紹介した、自分撮りが特徴の「EXILIM EX-TR150」だが、これには2つの理由がありそうだ。
 1つは同社のデジカメ部門はファブレスだということ。要は自社製造工場を持たず、外部委託製造である。こういう場合、商品買い取り制にすることが多い。その方がコストを下げられるからだ。しかし、生産調整がきかないというデメリットもある。売れなければ在庫を抱えることになるし、売れたからといって追加生産がし難い。自社生産のようにフレキシブルな生産ができないのだ。

 もう1つは「自分撮り」マーケットである。実はこのニーズはありそうでそれほど大きくはない。実際、同社の自分撮りコンデジは今回が初めてではないし、前の型番が国内市場で熱狂的に受け入れられたかといえば、そうではなかった。
 にもかかわらずなぜ、という疑問が湧くが、答えはターゲット市場の設定である。このデジカメに関し、カシオは国内より東南アジア市場をターゲットにし、大半をそちらに回していたのだ。要はもともと国内に出回る台数が非常に少なかったわけで、少量の注文で予定販売台数に達してしまったというのが事実だろう。

 一眼レフカメラは海外市場をメーンに考えられている。そのことはキャノン、ニコン、ソニーなどの一眼レフカメラメーカーが新製品を発表するのはまず海外であることにも現れている。だが、コンデジにそこまでの差はない。このあたりはカシオのユーザーニーズの把握、マーケティング力を評価すべきだろう。
 余談だがフィルムカメラ時代はニコン、キャノンという評価だったが、デジタル一眼レフカメラ時代はキャノン、ニコンと立場が逆転したのも面白いところだ。
 逆転した理由の一つはデジタル市場の捉え方の違いだろう。プロ向けのデジタル一眼レフ(デジイチ)が出始めた当初、プロフォトグラファーはほとんどキャノンのデジイチを使用していたのを覚えている。ニコンは危うくコダックの二の舞になるところだったが、ほとんどキャノンに後れを取らなかったのはさすがだ。
 それにしても、常にトップを走り続けることの難しさ。二番手企業の負けじ魂、反発心の強さいかんで立場が変わるということだ。もちろん万年二番手という企業もあるし、一般的にはそちらの方が多いのだが。

 商品サイクルを短くしたデジタル時代はカシオのようにファブレスの方が有利なのだろうか。たしかにそうとも言えるし、そのようにも見える。
 では、カシオに死角はないのか。答えはノーだ。
カシオに限ることではないが、コンデジ中心のメーカーはいま戦略転換を図ろうとしている。それに成功したところのみが生き残れ、失敗したところは市場から撤退することになる。
 低価格コンデジはもともと利幅が薄いところにもってきて、販売競争で値下げ販売されている。これではいくら売れても儲からない。そこで、いま各社は10万円前後の高級デジカメを相次いで発売している。このクラスになると本格的な画質が問われることになり、一眼レフカメラメーカーや、早くからこの分野に商品投入をしているメーカーに1日の長がある。
 ユーザー視点に立った商品企画のよさでここまできたカシオの今後が問われることになりそうだ。

歴史は繰り返す

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富士通 LIFEBOOK QH33


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