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日本の製造業はなぜ衰退したのか(9)
〜売れる秘訣は「簡単、安い、面白い」


売れる秘訣は「簡単、安い、面白い」

 デジタルが社会の様々なもの、システムさえ変えてしまい、それに伴い日本メーカーの優位性がなくなってきたが、かろうじて保たれているのが一眼カメラの分野であるとはすでに述べた。その理由はレンズというアナログ部分が残っているからだとも。
 ところで一眼レフカメラとミラーレスカメラの技術的な違いはあるのかどうか、という質問を読者から頂いたので、技術、市場の将来性との絡みで少し述べてみたい。
 まず一眼レフとミラーレスの違い。ひと言で言えばカメラ内部のレフレックス(反射板、ミラー)があるかないかの違いである。
 一眼レフはレンズから入ってくる光を撮像センサー(フィルムカメラのフィルムにあたる)の前にあるミラーで反射させ、その光をペンタ部のミラーでもう一度反射させて目に届ける。対してミラーレスはレンズから入った光を直接、撮像センサーで受け、液晶モニターで再生する。ミラーがない分、構造はシンプルで、形状をコンパクトにできるのが特徴だ。

 ミラーのあるなしだけで、他はデジタル処理だから両者に技術的な差はなさそうに思えるが、どうもそんなに単純な話ではないらしい。というのは、世界で最初にミラーレスカメラを開発したパナソニックも、当初は一眼レフへの参入を考え開発したが、結局うまく行かなかった。この点はシグマもよく似ている。シグマはフィルム時代に一眼レフカメラを開発し市場に投入したが、ほとんど評価されなかった。デジタル一眼レフカメラも引き続き開発しているが、評価され始めたのはこの1、2年だ。
 まあ言ってしまえば、たかがミラー、されどミラーで、ミラーの存在は非常に大きかったわけだ。それは詰まるところアナログのデジタル変換に関わる部分の問題であり、この調整に技術を要するということだ。結局、パナソニックはミラーを外すことで問題を解決したが、失敗から生まれたカメラがミラーレスと言えなくもない。

 ミラーレス市場をリードしているのはパナソニック、オリンパス、ソニーの3社。ソニーはミノルタのカメラ部門を買収しはしたが、パナソニックと同じく家電メーカーである。ミラーレス御三家の中でフィルム時代からカメラを作っているのはオリンパスだけだが、オリンパスも業界シェア下位企業だ。

 常に時代を変えるのは下層階級、よそ者、下位企業であり、売り上げ上位企業は高みの見物をしばらく決め込むのはどこでも、いつでも同じ構図である。そして新市場が拡大し始めた頃に一気に参入してくる。
 ミラーレス市場もこの法則通りの動きになっている。「うちの店で売れるのはミラーレスばかりです」。カメラチェーン店の某店長がこう断言するほど、いまミラーレス市場に勢いがある。買うのはコンデジになれた若者ばかりではない。老眼だと液晶画面が見にくく、ピントが合っているかどうか分かりにくいはずの中高年もミラーレスに流れている。理由は簡単、安い、面白いからだ。

 まず操作が簡単。ミラーレスの操作性は一眼レフというよりコンデジに近く、ボタン類も少ない。当然、コンデジに慣れた層には簡単に思える。
 次に価格が一眼レフに比べて安い。しかも、コンデジより画質がいい。これだけで消費者に親しみを感じさせ、買ってもいいと思わせるに十分な条件だろう。
 最後の一押しが面白さ。液晶画面が可動式になっており、角度を変えたいろいろな撮り方ができる。このことにより、対象を写すという機能一点張りのカメラに遊び心が加わった。カメラが写真機という機械から楽しめるツールに変わったのだ。
 このほかにも軽い、小さい、メカらしくないデザイン、既存カメラにはない斬新なデザインなどが、さらに親しみやすさ、遊び心を感じさせ、いままでユーザーでなかった若い女性を取り込んだ点が大きい。

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「B's Recorder」シリーズ


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