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林原グループの経営破綻が教えるもの(5)


5.社内バブルに踊る

 本稿を書きながら、私はゴッホを思い出していた。といってもビンセントその人ではない。画家の兄ビンセントと、その兄を画商として経済的に支え続けた弟テオのゴッホ兄弟のことである。
 いまでこそゴッホの絵は高く評価されているが、当時、彼の絵はほとんど売れなかった。それでもテオは愚痴一つ言わず兄のために必死に支え続けた。
 健氏と靖氏の関係はゴッホの兄弟に似ている。兄がやっている研究開発は成果が出るまでに10年以上かかった。その間、会社を支え続けるために弟は専務として不動産投資で資金を捻出することに努めた。

 健氏によれば、林原の経営が少しよくなったのは、同社が開発したマルトース(麦芽糖)が医療の輸液として使われだした1974年頃からのようだ。それまでは赤字である。
 ところが、この後状況は一変する。60年代後半から70年代前半にかけて新製法による高純度マルトース、マルチトール、プルランなどの開発が次々に成功し、国内はもとより国際的に注目されだしたのだ。

 このことは同社に2つのことをもたらした。
1つは研究開発路線の継続と深化。もう1つは設備投資増である。
 前者は社内に「時間や予算を気にせず、新しいことを追求し、未知の領域を開拓しようというポリシー」を生み、採算性を度外視した研究開発に一層のめり込むことになる。
 そして、さらなる研究開発を推し進めるために研究開発環境を整えていく。つまり研究所の新設・増設、研究設備の強化・導入である。今後明らかになっていくと思われるが、同社の収支バランスはすでにこの頃から悪かったに違いない。

 以下、主な動きを挙げてみよう。
1968年、酵素法による高純度(99%以上) マルトースの新製法を開発
    マルチトールを開発
1973年、プルランを開発
1974年、注射用高純度マルトース専用の岡山第2工場を建設
1976年、岡山第2工場内にプルラン工場を建設
1978年、虫歯になりにくい糖「カップリングシュガー」の製造技術を開発
1981年、マルチトールの無水結晶に世界で初めて成功
    インターフェロンの製薬化で大塚製薬(株)、持田製薬(株)と業務提携
1982年、前年建設した藤崎研究所を約3倍の規模に増設
1986年、無水結晶マルトースの量産法を開発
1989年、水溶性ルチンを開発
1990年、新規安定型ビタミンCの大量生産法を開発
    ビフィズス菌を増殖させる『乳菓オリゴ』糖を開発
                         (以上、同社のHPから)

 それまでの研究開発が一気に花開いているのが分かる。
これで慢心するなという方が無理かもしれないが、研究開発優先、研究者優遇の「社風」はますます幅をきかしていく。「ロビーや社員食堂にホテル並の設備と雰囲気を導入」した藤崎研究所がその象徴だろう。
 この頃の林原をひと言で表現すれば「社内バブル」「研究バブル」だ。
収支バランスを全く考えない研究開発の行く末はいまさら言うまでもないだろう。
 結局、同社の破綻原因は巷間言われているように不動産投資の失敗などではなく、採算を度外視「し過ぎた」研究開発にのめり込んでいったこと、「時間や予算を気にせず、新しいことを追求し、未知の領域を開拓しようというポリシー」そのものにあったのだ。
 不動産投資の失敗はあくまで外的要因、きっかけに過ぎず、内的要因、真の原因は同社の研究開発におけるポリシー、方針にこそあった。
 この無原則な支出を裏で支えていたのが不動産投資だ。しかし、不動産を担保にした資金繰りもリーマンショックで急激に悪化し、ついには追加融資を断られる状況にまで追い詰められたというわけだ。

 バブル経済期に多くの企業が収支バランスを考えず、分不相応な金を使ったように、社内バブルに湧いていた林原も分不相応に資金をばらまいた。
 その一つがメセナ事業だ。1964年の林原美術館の開設に始まり、遺児年金支給制度、林原国際フォーラム、備前刀の作刀技術継承のための「刀剣鍛錬道場」、映画製作、備中漆の復興事業、モンゴル・ゴビ砂漠での恐竜化石の発掘調査に至るまで、幅広く文化面での支援活動を行っている。一つ一つの活動はとても立派なものだし、同グループの貢献度は大きく、評価されるべきものである。
 しかし、手を広げすぎた感は否めない。分相応な範囲内(資金的にという意味)で留めておくべきだったと思われる。
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