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勝利の方程式〜「農村」戦略で伸びる企業・コメリ(1)


いいポイントを見つけることが勝利への道

 ビジネスは釣りに似ている、とは昔からよく言われる。
魚を釣ろうと思えば、魚がいるところに釣り糸を垂らすべきで、魚がいないところでいくら釣り糸を垂らしても釣れない、と。
魚がいる場所をポイントといい、いかにいいポイントを見つけるかどうかで勝負が決まるというわけだ。
 「魚」を消費者に、「ポイントを見つける」ことをマーケティングという言葉に置き換えればそのままビジネスに通じる。
 販売で苦労している所はマーケティングを軽んじていたり、不十分なことが多い。
 ともあれ多くの企業は消費者がたくさんいる「ポイント」、つまり大都市や都心の消費者を攻めてきたし、いまも攻めようとしている。
それは過去、多くの企業がそのようにして成功してきたからで、これこそ「勝利の方程式」と思われている。
 ところが、この大都市攻略を中心に据えた「勝利の方程式」の逆を行く企業が現れている。しかも、それらの企業が次々に成功を収めていることから、大都市戦略=必勝戦略とは必ずしもいえなくなった。

「勝利の方程式」が変わってきた

 大都市戦略の逆を行き急成長してきたのがイオン、ヤマダ電機、ホームセンターのコメリなどだ。
 これらの企業は消費者が多い都心より、消費者が少ない郊外に出店をしてきた。前述の「勝利の方程式」から見れば、消費者が多い「ポイント」を避け、消費者が少ない郊外に出店しているわけだから、「方程式」の逆を行く「常識破り」の戦略といえる。
 では、なぜイオンやヤマダ電機はこのような戦略をとってきたのか。
ひと言で言えば「人の行く裏に道あり」である。
都心のいい「ポイント」は皆が出店しようとするから競合も多い。いきおい激戦地になる。その上、都心は地価その他の出店コストも高い。
 ところが、郊外地は地価が安く、出店コストを低く抑えることができる。都心と同じか、それに近いコストをかければ、かなり広大な売り場面積を確保できる。しかもそれ以上に広大な駐車場付きで。
 これが郊外立地のメリットである。

 問題は集客力だ。駐車料無料というだけで人が集まるわけではない。人が集まるにはそれだけの魅力がなければならない。釣りでいえば「撒き餌」に相当するものが必要になる。
 イオンやヤマダ電機は低価格と広い売り場面積、豊富な品揃えと魅力的な専門店の出店にシネマなど、従来地方に欠けていたジャンルを揃え、「都会的なもの」を郊外に出現することで集客を図っている。

コメリの標準タイプは1,000uと小さめ

 ユニークなのはコメリの戦略である。
大都市出店ではなく、郊外出店という意味ではイオンやヤマダ電機と似ている部分もあるが、同業のホームセンター各社の出店戦略と比べてもユニークだ。
 例えば同社は九州に102店舗ある(6月25日現在)が、最も店舗数が多いのは熊本県で27店。ついで宮崎県16店、福岡県・鹿児島県がともに15店。そして長崎県13店、佐賀・大分県8店と続く。
 一般的に商業店舗は人口が多いところほど多くなるのが普通。消費者が多い地域に出店するのが商売の基本だからだ。そのため九州では、大体どの業界でも福岡県内の店舗数が最も多い。さらにいえば、福岡市とその周辺を含めた福岡都市圏への出店に集中する。しかし、不思議なことにコメリの店舗は福岡市内にはゼロだ。なぜ、コメリは消費者が多い地域ではなく、少ない地域に出店するのか。

 実は私がコメリの存在を知ったのは岡山県北の田舎に帰ったときだった。その時初めてコメリの店舗を見て「面白い企業だな」と感心した。いまから1年前のことである。ところが、福岡市内で見かけたことがなかったので、てっきり九州にはまだ進出していないのだろうと思っていた。それが九州のある地方で講演をする機会があり、こんな面白いホームセンターがあるとコメリのことを紹介したところ、聴衆の方は全員知っていた。それもそのはず、その地方にコメリの店舗があったのだ。

 このようにコメリが出店するのは都心部を避けた郊外、さらにいえば農村部である。
従来の常識に従えば消費者の少ない地域、すなわち販売効率も悪く、売り上げも少ない(と思われる)地域であり、同業ならずとも採算が取れないと出店を避けてきた地域だ。
 そういう地域に同店で標準タイプという売り場面積1,000uの店舗(「ハードアンドグリーン(H&G)」と同社では呼んでいる)を出店しているのだ。これはホームセンター業界の中でも小型に類する店舗である。それを同社では標準タイプとしているのだから、まさしく「人の行く裏に道あり」だ。
                                               (2に続く)


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