デル株式会社

 


 熊本雑感〜権不十年


栗野的視点(No.792)                   2023年3月17日
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熊本雑感〜権不十年
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 先月、阿蘇に1泊旅行で行ってきた。パートナーから「誕生日プレゼントは何がいい」と問われ、近場への1泊旅行にしたのだ。
 阿蘇を選んだ理由は特にない。長崎・野母崎の水仙、長崎ランタン祭りは何度か行っているし、すでに終わっていたから、熊本にするかという感じで決めた。ただ、彼女は温泉大好きだから、自分のことはさておき温泉があるところがいいだろうと思い、宿の選定は任せた。

 とはいえ、こちらに温泉趣味はないし、阿蘇まで1泊ドライブというのはあまりにも脳がなさすぎる。何か他に興味を引きそうな場所はないかと尋ねると「クマ牧場」に行きたいと言う。う〜ん、熊を見てもねと言うと、今は熊が色々芸をするショーになっているから楽しいし、阿蘇に行けばぜひ観たいと言う。
 まあ、他に行きたいところもなかったから、コースは任せる、と言いつつも、クマ牧場は先に行くか、翌日行くかでコースが多少変わる。
 クマ牧場はゆっくり観たいから翌日、という意見に従い、では、阿蘇に向かう途中どこに寄るかということになり、「修復中の熊本城に行ってみたい」と言われ、これまた意見に従うことに。

 熊本城は40数年ぶりだったが、様変わりしていた様子に驚いた。と言っても熊本地震で城壁が崩れた様のことではない。入城門辺りの変化で、物品販売の店が立ち並び、まるでどこかのテーマパークに来たような感じ(違和感)を受けた。いつからこうなったのかと思い尋ねると「九州新幹線開業を記念して」とのこと。

 観光客目当てにテーマパーク化、アニメ化したところに興味はないので素通りし、空中回廊を通って天守閣前広場へ。天守閣内に入ることに興味はないので、上がるのは彼女に任せ、天守閣前広場で休みながら持参の弁当を食べ終わり周囲を眺めていると、ボランティアの中年女性が1人、説明を聞く観光客が途切れたのか、傍目には手持ち無沙汰な様子に見えたので彼女に協力することにした。

 近づくと、待ってましたとばかりに「この井戸の中を覗いてください。水が溜まっているでしょ」と暗い井戸の中を覗くよう促された。
 「下の方に水が溜まっているのが見えますね」と相槌を打つ。
 人は群れたがるというか、他人と同じ行動をしたがるらしく、自分なりの撮影ポイントを見つけてカメラを構えていると、ご婦人たちが必ず側に寄って来て同じようにカメラを構えるように、この時も私が井戸の中を覗けば数人が寄って来て中を覗いたが、井戸の中は暗く、水しか見えないのでボランティアガイドの説明もそこそこに立ち去って行く。

 「熊本城内にはこのような井戸が○箇所もあり、その水のおかげで西南戦争の時、西郷軍に攻められても持ち堪え、勝つことができたのです。熊本は水の都と言われ、水が豊富な土地です。今でも熊本市内の水道はこの湧き水ですから」
 たった1人でも説明できる相手が残ったことで、彼女は本来の仕事に戻った。その説明を聞きながら、ちょっとからかいたくなり、「あの時、熊本城が陥落し政府軍が負け、西郷さんが勝っていたら、その後の日本の政治は変わっていたでしょうね」と意地悪な言い方をしてみた。
 それは自分の説明の範疇外だとでも言いたげに「そうですね。どうなっていたでしょうか」と無難な応答。

 そこで少し話題を変えてみた。
 「細川さんが知事時代にはアートポリスなど色々お遣りになられましたが、細川さんの評判はどうですか」
 当然「いいですよ」という言葉が返ってくると予測していたが、彼女の口から出たのは反対の言葉だったので少し驚いた。
 アートポリスがよくない、と言う。あれで県民はずいぶん迷惑をかけられた、と。
 「私も色々観に行きましたが、県営住宅は設計思想は理解できますが、東京などの大都市でなら分かるが、熊本で必要かなとは思いましたね」
 「誰があんなところに入るか、と皆言っていますよ。細川さんは2期で辞めてよかったんですよ」
 とさんざんだ。

 おそらく経費のことも含んでいるのだろうが、ここまで評判がよくなかったのかと驚いた。東京あたりでは評価されていたようだが、地元受けは逆か。もちろん、県民の中には氏を評価し、好印象を持っている人もいるとは思うが。

 「私の周囲では、細川さんが来たら金の話はするな、と言っていましたから。すぐ金を貸してくれと言うんですよ。あの人、お金を持ってないでしょう」

 いやー、趣味の陶芸をやったりと悠々自適の生活をされていたから金には不自由してないと思っていたが、内実は違ったのだろうか。

 まあ、何事もやり遂げないとダメというのは東国原元宮崎県知事の件にもよく現れている。1期4年で辞めたことだけでなく「逃げた」と見られた辞め方が県民に批判されたのはある意味当然か。
 かたや「権不十年」という言葉を残して2期8年で知事を辞めた時は個人的にもカッコいいなと思ったが、裏の事情(思惑)もあったようだが、ともに知事の座を投げ出したと県民が受け取ったのは間違いないだろう。
 因みに「権不10年」とは「花に十日の紅なし、権は十年久しからず」という言葉から取って「権力は十年で腐る」から3期目は出ずに2期で辞めるという意味で彼は使った。
 政経界を問わず、近年、長期に渡って最高権力者の地位に留まり続けるトップばかりだが、この言葉を煎じて飲ませたいものだ。


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