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増えている、客の質問を無視する従業員(2)


客に知識をひけらかす社員

 次の例は仕事ができる、知識が豊富な(と本人が思い込んでいる)社員が起こしやすいミスだ。
 某メーカーのデジタル一眼レフカメラ「D7000」にゴミが映り込んでいたので、博多駅前にあるショールームを兼ねたサービスにカメラを持ち込んだ時のことだ。
 発売後数か月しかたってないし、屋外でレンズ交換をした記憶もないので、まさかカメラ内部にゴミが入り込んでいるとは疑わなかった。そこでまず思ったのはレンズフィルターに付着したゴミ。しかし、レンズフィルターを掃除しても、外して撮影しても結果は同じだった。次にレンズを交換してみたが、やはり同じ場所にゴミが映る。こうなるとカメラ内部のゴミしかない。そこまで自分でやってからサービスに持ち込んだ。

 実はこのカメラ、1か月前にも同じ症状で持ち込んでいたのだ。その時は「あっ、分かりました。掃除してみましょうね」と、すぐ掃除してくれた。にもかかわらず、同じ症状が出るということは前回に取り切れてなかったということだ。
 こういう場合、私は案外寛容である。機械の不調を直す場合、原因と考えられる箇所を疑い、まずそこを点検する。それで改善しなければ他の場所を疑い、点検するということの繰り返しになる。前回の掃除が不十分だったのは間違いないが、「想定外というのはおかしいだろう」などと怒ったりはしない。想定がちょっと甘かったということで、こういうことはある程度起こりうると思っているからだ。ただ、クリーナー程度のことに1週間近く時間をくれと言われると怒るが。
 これは余談だが、最近車を買い換え、前の車に付けていたレーダー装置を移し変えてもらった。ゴールデンウィーク前のことで、その翌日から10日近く岡山に帰省したが、高速走行中にレーダーが反応していないことに気付いたのだ。明らかに取り付け時のミスである。早速、電話して、帰福後点検してもらうことにしたが、その時もベテラン技術者でもこんなミスをするのだと思ったぐらいだ。

 話を戻そう。
2度目にカメラを持ち込んだ時のことだ。
「1か月前にも掃除してもらったんだが、やはり同じ箇所にゴミが映っている・・・」
 ここまで言ったとたんに、相手が喋り始めた。
「屋外でレンズ交換されるとどうしてもゴミや埃が入りますから、屋外ではレンズ交換をされないようにして下さい」
「このカメラは外でレンズ交換をしたことはない」
「室内でも目に見えなくても細かい埃が舞っていて、レンズ交換の時にそれがカメラの内部に入りことがありますから」
 相手の言うことを聞きながら呆れてしまった。

 ここはショールーム兼サービスであり、訪れる客は展示商品を眺めるか、修理の依頼以外にない。
お嬢さんの知識が豊富なのは分かるが、こちらはご高説を聞きたくて来ているわけではない。修理してもらうために来ているのだ。
「それで?」
 と尋ねると、再び「埃は・・・」とまた説明をし始めた。
これにはさすがに参った。
「だからどうしろというの」
「?」
「持って帰って自分で掃除しろというのか、それとも別の所に持って行けというのか。ゴミが映り込んでいると言っているのだから、分かりました、すぐ掃除します、で終わる話じゃないのか」
 さすがにそこまで言われて気付いたようで「申し訳ありません。すぐ点検いたします」と、奥に引っ込んだ。

 知識をひけらかしたいのは分かるが、まず客の言うことを聞き、修理した後ですべき話である。彼女の場合は後先の順序を取り違えたから客を怒らすことになったのだ。
 最初の例が情報不足によることが原因とすれば、後の例は喋りすぎ、あるいは知識のひけらかしが原因で起きたミスで、この種のミスはクレームに繋がるだけに注意が必要だ。
 ところで、掃除を終えたカメラを持ってきたのは中年男性社員。彼が実際に掃除した担当者のようだった。
「前回もお持ちいただいたようで申し訳ありませんでした。今回はより徹底して掃除したつもりですが、それでも取れてないこともあります。たまに製造ラインでゴミが入り込むこともあるようで、そのゴミが内部でぐるぐる回っている可能性もあります。もし、またゴミが映るようでしたら、今度はもっと徹底的に調べる必要があります。その場合は分解掃除をすることになりますが、何度もお手数をかけて申し訳ありませんが、その際は再度お持ちいただけないでしょうか」
 なんだ、ちゃんと言える人もいるではないか。最初からそのように言えば、お互いに時間とエネルギーをムダに済んだのに。
 それにしても世界に名だたるカメラメーカーの社員でもこの程度の接客しかできないというか、社員教育が不十分である。

 元々の原因は国語力の低下だとは冒頭述べたが、社員教育を入社時の1回しか行わないことにも問題がありそうだ。入社数年後に行うのはせいぜい専門知識の勉強会ぐらいで、社会常識、マナーの再教育を行っているところは少ない。おじきの仕方も大事かもしれないが、それだけでは、ね。



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