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「やらせメール」問題の対応に見る九電トップの驕りと勘違い(1)


 九州電力(以下、九電)が「やらせメール」問題への対応で揺れている。
というより対応の仕方にガッカリした。これが九州を代表する財界トップの対応かと。
「九州を代表する財界トップ」と言っても九州経済に詳しくない人にはよく分からないかもしれないが、九州経済界にはいくつかの団体があり、そのうちの一つに九州経済連合会(略称、九経連)がある。
九電の現会長、松尾新吾氏は九経連の会長をも務めているのだ。
因みに九経連の代々会長は九電の会長が就任するのが慣例になっている。

 察しがいい読者はこの構図を見ただけで大体分かるだろうが、要するに庶民感覚などは全く持ち合わせていない人が九州経済界のトップに君臨しているわけだ。
 松尾氏は7代目会長だが、以前九経連4代目会長に九電本社でインタビューしたことがある。
 インタビューの本題に入る前振り段階辺りでの話だったと思うが、「九州国際空港の候補地も各県がそれぞれ自分のところがいいと手を挙げているから、九経連としてもまとめるのが大変でしょう」と言うと、「そんなことは君に言われる問題ではない」と怒って、突然立ち上がり、腕時計を見ながら「もう時間がないから」と退席しようとした。
これには驚いた。同席した九電秘書室の担当者もビックリした顔で会長を見上げていた。
その場にいた誰もが、なぜ怒っているのか、何があったのか、状況の把握ができず困惑していた。

 そのままにしてもよかったが、秘書室に取材時間も設定してもらっているし、こちらも本題の質問があるし、掲載媒体の課長も同席していたので、取材を続けるかと思い質問を変えると、相手もさすがに大人げないと思ったのかどうか、ともかく以後は静かにインタビューを終えることができた。

 それにしても、なぜ、この程度の話でインタビューを打ち切ろうとするほど怒ったのか。
 実は彼が九経連の会長に就任した時に打ち出したのが「九州国際空港の建設」だったのだ。
 就任当初は福岡沖ですんなりまとまるはずと考えていたのだろう。それがいざ具体的に場所を決めるという段階になると各県がそれぞれ違う場所を主張し、まとまりが付かなくなっていた。
 その一番頭を悩ませていた問題を、私がいきなり口にしたから腹立たしかったのだろう。しかし、財界トップともあろう人間がこの程度の質問に腹を立てるとは肝っ玉が小さい。東京の財界人なら「いやー君の言う通りだよ。頭が痛いよ。だが、ちゃんと落ち着くところに落ち着くから、まあ見ていたまえ」みたいなことを笑いながら言うに違いない。
なぜ、そうした対応ができなかったのか。それはどうやら次のような事情によるものらしいが、それは後述する。

 実はこの頃、私はよく財界トップを怒らせていた。
正確にはこちらが怒らせたのではなく、相手が勝手に子供じみた怒り方をしていたのだが。
 九経連・九電会長インタビューより1、2年前だったと思うが、当時の相互銀行が普通銀行に転換するかどうかという動きがあった。
そこで全国相互銀行協会の会長(福岡市に本社がある相銀社長)に「普銀転換について」という内容で取材を申し込んでいた。
 相銀協の会長は普銀転換の旗振り役だった。相手は当然、普銀転換で相銀のサービスがどう変わるかみたいな話を聞かれると思っていたのだろう。ところが、「普銀になるメリットもあるが、ならないメリットもあるんではないですか。上位行は普銀になった方がメリットが大きいでしょうが、下位行は現在の相互銀行法で守られている方がいいという意見もあるでしょ」と私が言ったものだから、彼は怒り出した。ソファに腰掛けると床に届かない短い足をバタつかせながら「そんなことは君に言われる筋合いはない」と、これまた子供じみた怒り方をした。

 こちらは一介のフリーのジャーナリスト。当時年齢は40そこそこ。対する相手は財界トップ。子供と大人みたいなものだ。まともに喧嘩の相手になどなれようはずもない。そんな相手になぜ、子供じみた怒り方をするのか。それが不思議だった。
 思い当たったのは地方財界人の取材不慣れと地方メディアの御用聞き化だ。要は九州の財界トップはメディアを自社広報係としか見ていないし、メディア側も「ご意見を拝聴」する御用聞き取材が中心になっているということだ。

 なぜ古い話を持ち出しているかというと、今回の九電トップの対応を見ていて、昔と全然変わってないな、企業体質だなと感じたからである。

                                              (2)に続く



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