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 「レッドクリフ1」、早すぎるTV放映の背景に不況の影響


 4月12日、「レッドクリフ1」がTV朝日系で放映された。
劇場公開されたのが昨年11月1日。
それから半年にも満たない5か月ちょっとでのテレビ放映は早すぎる。
これではわざわざ映画館に行って観なくてもTV放映を待てばよかった、という声を聞にしたが、充分納得できる。
4月10日から「パート2」が上映されているから、今回のTV放映が映画館に足を運ばせるためのPRなのは間違いない。
それにしても、なぜそこまでしなければならなかったのか。

 通常の手順で行けば、パート1の上映。
それからしばらくたってDVDの発売。
さらにしばらくしてTVで放映、という順だろう。
最初の上映からTV放映まで早くても1年はかかるのが普通だ。

 ただ「レッドクリフ」は従来の映画制作からすれば多少異色である。
例えば赤壁の戦いとうテーマを2回に分けたこと。
通常なら続編を作るか、「シリーズ1」、「シリーズ2」とするかだが、「レッドクリフ」は「パート1」「パート2」と銘打っている。
日本語風にいえば「前編」「後編」だ。
つまり最初から1本のものを上映時間等長さの関係でパート(部分)に分けて上映している。
それ故、2本の上映期間を近接せざるをえない宿命を最初から背負っていた。

 同じような作り方をした映画にチェ・ゲバラの生涯を描いた「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳別れの手紙」がある。
「レッドクリフ」「チェ」の両作品がほぼ期を同じくして上映されたのも興味深い。
 余談だが「チェ」はタイトルの付け方が実にうまい。
よほど腕のいいコピーライターがタイトルを付けたに違いないと思っていたが、原作本のタイトルも同じようになっていたから、原作本のタイトルがうまかったのかも分からない。あるいは映画に合わせて原作本(翻訳本)のタイトルを替えたのか(そういうことはよくある)。いずれにしろタイトルの出来はとてもいい。「チェ・ゲバラ1」「チェ・ゲバラ2」では読もう(観よう)と思わないだろう。

 さて、このような作り方をするメリットは何か。
2本別々に作るより制作費が安く付く。
資金をまとめて調達することでスケールの大きなものが作りやすい。
宣伝・PRも集中的にでき、話題づくりがしやすいことだろう。

 話題の一つは総制作費100億円。ジョン・ウー監督自身も「私財を投げ打ち」10億円を負担したとのこと。
エイベックスが資金を含め当初から関与したことでも話題になった。
 どうやら、この辺りに一つの答えがありそうだ。

 近年のハリウッド映画は制作費の大きさばかりが話題になる傾向があり、そうした映画ほど観たあとガッカリすることが多い。
「レッドクリフ」はこの流れを断ち切ることが出来るか。
私の感想はノーだった。
 それはさておき、多大な制作費を要したものは、当たり前だが回収が問題になる。
通常、回収は上映収益以外にタイアップ本や関連グッズの売り上げ、DVD等で稼ぐことになる。
 今風に言えば、こうしたもので多少なりともリスクヘッジをするわけである。
このリスクヘッジの一つにTV放映料収入がある。
今回のように「パート1」上映から間がなくTV放映をする場合、放映料収入も通常よりは多く取れるはずだ。
 これがTV放映を急いだ理由の一つだろう。

 もう一つの背景は昨秋以降の世界不況の影響である。
映画制作の場合は企画から上映までに数年かかるのが普通だ。
その間、資金が寝ることになり、資金効率は悪い事業である。
そこに持ってきて、昨秋からの急激な世界経済の悪化である。
当初の目論見が大きく狂ったことは想像に難くない。
 それでなくても出資者は早めに資金を回収したい。
出資額が多ければ多いほど回収時期の遅れは自らにダメージを与える。
それどころか、昨秋以降の経済情勢では回収の遅れは致命傷になる。
 ところが関連グッズやDVDの販売はハード製作コストがかかる。その点、TV放映はソフトの販売のみでハードの製作コストがかからない分、丸々収入になる利益率のいいビジネスである。
 つまり「レッドクリフ」のTV放映が急がれた背景には世界不況が大きく影響していたといえる。



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