時代考証がいい加減な「碁盤切り」

　　さて、同じく2024年に放映された日本映画の「碁盤切り」。主役は草�g剛で、それなりに頑張っていたが、映画は面白くなかったし、出来がよくなかった。　真田広之の「SHOGUN 将軍」に比べ、全編嘘っぽいのだ。

　まず時代考証がいい加減というか、その時代にあり得ないことが描かれている。例えばのっけのシーンからおかしい。半年も家賃の支払いが滞っている浪人なのに着ている物が上等で、月代（さかやき）がきれいに剃られている。落ちぶれても常に武士のたしなみを忘れていないというなら、その説明は必要だが、後半の妻の仇討ち相手を探し東海道を旅する段になると月代は剃らず頭は茫々になり、急に浪人風に変わっている。

　さらに懐紙を懐に入れている。当時紙は高価で懐紙を使えるのは高級武士で下級武士は懐紙など使っていない。ましてや浪人に落ちぶれた武士が懐紙を使えるはずもない。
　昔の時代劇なら浪人や下級武士は人を斬った後、刀に付いた血糊を拭うのに相手の着物で拭うか、手拭いなどの布を使うシーンを使っていたが、そちらが本当で、紙の値段を現代と同程度に考えているのは監督が若いか当時のことを知らないからで時代考証が全くなされていない証である。

　史実的にあり得ないのが碁会所。たしかに一部掛け碁が流行った時期があった。だがこの映画では庶民、いわゆる農民、町人、さらにはろうことか町人か農民に見える女性達が碁会所風なところで囲碁を打っているシーンが出てくるが、これはまったくあり得ない。
　囲碁は武士や貴人、一部富裕層の商人などがたしなんだが、庶民が興じたのは将棋の方だ。
　これはちょっと考えただけでも分かることで囲碁は戦略的で勝負が分かりにくいし、時間がかかる。当然、時間に余裕がある層しか囲碁をたしなめない。たしかに囲碁にも早打ちがあるにはあるが。
　一方、将棋は各駒の役割が決まっているからルールが分かりやすい。盤や駒にしても囲碁に比べれば安く手に入る。だから庶民の間で広まった。

　こうしたことを無視して無理やり「碁盤斬り」というテーマに当てはめて映画を創ろうとするから観ていて嘘っぽく面白くない。
　日本映画なのに「碁盤切り」の方はまるで外国人が日本の時代劇を創ったような映画になっている。

　たしかに時代劇は制作費がかかる。ただ「碁盤切り」にそれほどカネがかかるセットがあったようには見えなかった。
真田広之と同程度のこだわりを持てとはいわないが、せめて時代考証はしっかりして欲しい。
　余談だが昭和20年前後を設定したドラマで中心的な登場人物クラスの着ている物が、例えば国民服やモンペがいかにも真新しかったり、上等な生地だったりするのもありえないことで、そのドラマ全体を嘘っぽく見せてしまうが、最近はそんなドラマが多い。
　映画だけでなくモノづくりの現場から「ホンモノ」へのこだわりが消えているように思える。それがひいてはニッポン経済をダメにしているのではないかと憂えるのは私だけか。