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パラダイムシフトが起きている(3)
金融ホスピタリティを目指す巣鴨信用金庫(前)


 金融機関はサービス業である、といえば笑われるだろうか。何をバカな、と怒られるかもしれない。それほどサービスとは遠い位置にいるのが金融機関である。そんな中にありながら「金融業はサービス業」と断言し、顧客サービスを実施しているところがある。東京都豊島区巣鴨に本店を構える巣鴨信用金庫(田村和久理事長)だ。

午後3時以降も窓口サービス

 金融機関に最も要求したいサービスは営業時間の延長、と考えているのは私一人ではないだろう。金融機関の主たる顧客は企業である。そしてほとんどの企業が平日午後5時まで営業している。にもかかわらず、顧客の便宜を考えずに、顧客より2時間も先に営業をやめる企業が他にあるだろうか。
 ところが、金融機関はそれを堂々と行なっているのだ(ゆうちょ銀行を除く)。これで顧客サービス云々はないだろうと思うが、そのことで怒る人はあまりいないのも不思議だ。
 金融機関はかつて大蔵省(当時)により護送船団方式で保護されてきた。それが崩れたいまもほぼ横並びで進んでいる。アメリカでは営業時間を延長した銀行が現れたが、その後広がったという話は聞かない。
 やらない、やれない理由は色々あるのだろうが、顧客のことを考えるなら実行すべきだし、どこかが厚い壁に風穴を開けるべきだろうと思っていたら、巣鴨信金は窓口営業時間を延長していた。

 「サービスデスクアフター3」。同信金が行なっている営業時間延長サービスの名称だ。
 このサービス、午後5時までの窓口業務延長かと思ったら、なんと7時(一部店舗は5時)までというから驚いた。
 サービス業務の内容は「預金の入出金から新規、定期預金の書き換え」さらに「融資、年金、資産運用の相談」にも応じるなど、通常の窓口業務と変わらぬことが行われるのだ。
 ただ、窓口をそのまま開けておくということではなく、ATMコーナーで職員が通常と同じように対応するので、利用者にとってこれ程ありがたいサービスはないだろう。(但し、3時以降にATMコーナー横に職員が常駐しているわけではない。顧客の要望に応じて出てきて対応するスタイル)

早朝サービスも

 最近、小売りの世界、特にホームセンターなどでよく見かけるのが開店時間の繰り上げである。午前10時開店だったのを30分繰り上げて開店するとか、8時半から対応するところなども見かける。建築、建設業などプロが現場に行く前に道具やちょっとした材料を買えるように早朝開店で対応しているわけだ。

 巣鴨信金がこれと似たような対応をしているのにはちょっと驚きだった。同信金の場合、開店時間を5分早め、午前8時55分に開店し、窓口業務を開始している。たかが5分と思われるかもしれないが、早朝の5分は通常の30分に匹敵するはずで、うれしい顧客サービスだ。

 午後5時ではなく7時までの延長といい、8時55分の開店といい、私の予想を上回るサービス内容だった。
 このような発想は金融業からは絶対生まれないはず、と思っていると、現理事長は外食産業の経験があるとか(ちょっと不確か記憶だが)。

来店者を茶菓でもてなし

 来店者を茶菓でもてなしてくれるような金融機関があるだろうか。大口預金をした時ならあるかもしれないが、それでもせいぜいお茶ぐらいだろう。ところが巣鴨信金は、預金をしに来たわけでもないのに茶菓でもてなしてくれるわけで、初めて本店を訪れた人は腰を抜かすかもしれない。
 そんなうまい話があるわけない。なにか裏があるのだろう、と考える人がいても不思議ではない。むしろ、そう考える方が普通だろう。この世には人を騙そうと手ぐすね引いて待っている人が多いのだから。
 もちろん条件がある。こう書けば、ほ〜ら、やっぱりあったんだ。思った通りだ、と言われそうだが、条件は4の付く日のみ。つまり4日、14日、24日の月3回。この日に本店に行けば、お茶とせんべいのサービスが受けられる。

 実は4の付く日は「とげぬき地蔵」の縁日で、巣鴨地蔵通りは大賑わいになる。だからといって、その人出を狙って客にしようと考えて始めたわけではない。発端はトイレ。近くに公衆トイレがないため、本店のトイレを皆さんに開放したのが始まりらしい。そのうちトイレだけではなく、ついでにお茶とせんべいを振る舞うようになり、ホールを無料休憩所として利用してもらうようになったとか。
 これこそがサービス、おもてなしである。
どれくらいの人が巣鴨信金の「無料休憩所」を利用しているのかというと、毎回3,000人というから、これまた驚く。毎月9,000人を茶菓でもてなしていることになり、たかがお茶とせんべいといえども、これほどの人数ともなれば経費もバカにはできないだろうと思うが、「利益は後から付いてきます」と田村理事長。
 こんなサービスを受ければ同じことなら巣鴨信金を利用しようと誰しも思うに違いない。
                                               (後)に続く


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