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パラダイムは変わるか〜我々富裕層から税金をもっと取れと主張(1)
〜富裕層への増税を唱える声が

栗野的視点(No.661)                   2019年9月27日
パラダイムは変わるか
   〜我々富裕層から税金をもっと取れと主張


 パラダイムが変わるかもしれない−−。そんな予感を感じさせる出来事がこの数か月の間にアメリカで立て続けに起きた。1つは今年6月に、もう1つは8月に。前者はアメリカを代表する大富裕層が自分達への課税をもっと増やすよう求めたもので、後者は米主要企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が株主第1主義をやめると発表したのだ。

 この2つの動きがアメリカで起きたことにパラダイムの変化の兆しを感じさせる。アメリカこそが資本主義の権化、金融資本主義、強欲資本主義の大元だからだ。その地で減税ではなく、増税を主張する動きが現れたのだから、これは「事件」と言っていいだろう。
 それも増税を叫んだのが低所得者層ではなく、富裕層の中でもさらに富裕なスーパーリッチ層からだから驚かずにはいられない。

大富裕層への課税は道徳的、
倫理的、経済的責任だ


 アメリカの富裕層は人口の1%を占めており、その1/10が大富裕層だと言われている。彼らの財産は全米の90%世帯の財産にほぼ匹敵する。それだけの富を持っている大富裕層が自分達にもっと税金を課せと言っているのだ。「金持ちはケチ」とはよく言われるが、彼らの言動はそれが間違っていると証明しているようだ。ただし、この中に日本は含まれていないと言っておくが。

 この主張を彼らは「2020年大統領候補への公開書簡」と題してインターネット上に公開したが、そこには投資家であり慈善家としても知られているジョージ・ソロスやウォルト・ディズニーの孫のアビゲイル・ディズニー、フェイスブック共同創業者のクリス・ヒューズ、ハイアットホテルズのオーナー一族で元女優リーゼル・プリツカー・シモンズ夫妻など18人が名を連ねている。

 この公開文書は本来なら現大統領宛てであるべきだが、そうではなく次期大統領選挙候補者に宛てた書簡の体裁をとっている。トランプ大統領が彼らの主張に耳を傾けるとは思えないからだろう。
「私たちは、共和党員、民主党員の如何を問わず、大統領候補者全員に、最も富裕な1%のアメリカ人のうちの1/10の富に対する中程度の資産税を課すよう求める。次世代のドルによる新税収は、中所得および低所得のアメリカ人からではなく、最も財政的に幸運なものから取るべきだ」
 という文章で始まり「アメリカは私たちの富にもっと課税する道徳的、倫理的、経済的責任がある」と言い切っている。

 従来ならこういう主張をするのは低所得層や政治的左派やインテリ層であり、富裕層が立ち上がることなど考えられなかった。むしろ富裕層は批判される側の人達だった。それがなぜ、富を持てる側から自分達の富に課税を増やせという声を挙げたのか。
 背景にあるのは極端に進んだアメリカの格差社会であり、いまや分断、対立の構図は左右ではなく上下に変わっている。これはアメリカだけでなく他のヨーロッパ諸国もそうだし、日本でも所得格差が広がり、その格差が固定化しつつある。
 こうした状況を憂い、自分達大富豪に「富裕税」とでもいうものを課し、そこから上がった税収を「気候危機への対処、経済の改善、健康への影響の改善、公平な機会の創出」などのために使うよう要望しているのだ。

米仏で富裕層への増税を唱える声が

 実は「大富裕層にもっと課税しろ」という声が上がったのは今回が初めてではない。2011年の夏にアメリカとフランスで富裕層への課税を訴える声が上がっている。
 まずフランスである。2011年8月23日、化粧品大手「ロレアル」の創業者の娘リリアン・ベタンクールさんやエネルギー大手のトタル、エールフランスのCEOなどフランスを代表する企業のトップら16人が連名で「特別貢献税」の創設を政府に要請したのである。
 要は彼らを含む富裕層からもっと税金を徴収しろというわけで、そのために「特別貢献税」という新たな制度を作れと言っているのだ。目的はフランスの財政赤字削減の支援である。
 当時フランスでは、政府が財政赤字の削減目標を達成するため、高所得者向けの増税や住宅関連税制優遇の縮小、企業向け税控除の縮小などを検討しており、それを支援する動きである。

 背景にあるのは、いまや先進国共通の中間層の下層化と低所得層の拡大である。私は、米英に比べて平等思想が強いフランスで格差是正の動きが、下からではなく上からの動きであったとしても、起きたことに注目している。常に歴史はフランスから動くからだ。
 フランスの次の動きは2018年11月から続いている「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動である。低所得層の立ち上がりだが、これに続いて中間階級(数は減っているが)が立ち上がった時、フランスが世界を変える起点になるだろう。フランス革命や「カルチェラタン」のように。
                             (2)に続く



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