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2次クレームを防ごう:「クレーム客をファンに変えた旅館(2)」


 前号で「クレーム客をファンに変えた旅館」について書いたが、少し関連補足をしておこう。
 旅館で起きた問題は次のような点だった。
 1.関西の客が熱海の旅館に宿泊した。
 2.料理が口に合わなかった。
 3.味が悪いと料理長にクレームを付けた。
 4.翌朝、女将が客に詫び、手土産を渡した。


 1から3までは比較的起こりうるパターン(料理長まで呼び付けるかどうかは別にして)である。
 ところが、この後の対応にはいくつかのパターンが考えられる。
 A.当館の味はこれだと主張し、当館に宿泊した以上、客はこちらの味に従うべきだ。
そうでなければ2度と来てもらわなくていいと、自らの主義を通すパターン。

 B.客の指摘を受け、味が変っていたのかどうかを確かめ、味が落ちていれば調理場にそのことを指摘し、改善を図る。
  イ.ただ、客にはその事実を告げずに無視する。
  ロ.翌日、客には「申し訳ありませんでした」と謝る。

 C.調理場で実際に味を確かめてみたが、味はいつも通りだった。
  イ.要は地域による嗜好の違いなので、客にはそれ以上の対応をしない。
  ロ.関東、関西の味の違いのようだったが、客に不快な感じを抱かせたことに対し、申し訳ないと、翌朝、女将が謝る。

 このほかにも対応はあるかもしれないが、以上のように大きく分けただけでも旅館側の取り得る行動には6パターンある。
 Aのように「うちの味はこれだ」と主張し、それが嫌なら来るなと言うところも確かに存在する。それはそれで店のポリシーかもしれないし、そういう頑固さを支持する客がいるのも事実だ。
 Aにあるのは「排除の論理」だから、その価値を認めている、あるいは認めてくれる客しか来ない。つまり客数はほとんど増えることも減ることもなく、現状維持か、あるいは緩やかな減少だろう。
 市場が拡大しているバブル期などには、このパターンでも十分成り立つ。
しかし、市場が縮小している時は厳しい経営を強いられる。
 つまり、このパターンの場合は客は増えないという前提で経営しなければならないだろう。
 膨張政策を採らず、一人ひとりの顧客を徹底的に大事に、リピート率を維持するようにすることだろう。

 問題は客との間に軋轢が生まれ、それが2次クレームに繋がる可能性がきわめて大きいことだ。
 2次クレームにまでなると、前回にも指摘したが1人の客を失うだけでは済まなくなる。クレーム処理に3倍のエネルギー、コストを要することになる。

 現実的に最も多いのが「Bイ」「Cイ」の対応だろう。
この場合、客には不満が残る。
2次クレームの発生までにはならなくても、客(単数ではない。複数になる)を失うことになるのは間違いない。

 さて、今回、熱海の旅館の女将がとった対応は「Cロ」である。
ところで、なぜ、女将は客に謝ったのだろうか。
料理のまずさを認めたのか。
そうではない。
 女将はこう言ったのだ。
「料理がお口に合わなかったようで、申し訳ありません」と。
 本来なら一人ひとりの客の口に合わせて料理を作りたいのだが、
 大人数の客を対象にした温泉旅館という性格上、
 そこまで手を回すことができずに、
 「結果として客に不快な思いをさせてしまった」
ということに対し、「申し訳なかった」と謝ったのである。

 ここで次の法則を思い出して欲しい。
「店や会社で客をなくしていく最大の理由は商品や価格ではない」
 では、客を失う最大の理由は一体何なのか。
「店員や従業員の無礼な態度や無関心な態度である」

 そう、客は「店や会社の対応に失望した時」に離れていくのである。
さらに重要なことは、客は対応に失望した時、本当のことを言わなくなるということだ。

 最後にちょっとした余談。
数日前、友人と某ファーストフード店でコーヒーとドーナツ類を注文した時のこと。なかなかコーヒーが出て来ない。ドーナツを食べ終わってもまだコーヒーが来ない。一体どうしているんだ、と思っている時、やっとコーヒーを持ってきた。
「大変お待たせして申し訳ありません」というひと言を添えて。
そのひと言で、「遅すぎる」と文句を引っ込め、「大丈夫。ちょっとしか待ってないから、いいよ」という言葉が口を突いて出た。
 客が7、8人並んでいたから、そちらの対応に手を取られ、コーヒーを持ってくるのに手間取ったのだろうということが容易に推察できたということもあるが、最初に口にした「大変お待たせして申し訳ありません」というひと言ですべてが許されたのだ。

 クレームは業種、内容のいかんを問わず起こりうる。
問題は1次クレームを2次クレームの発生に繋げないことだ。



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