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 歴史はらせん形に進む−−時代の修正作用が働き始めた(1)


思考停止状態で踊り狂った日本

 歴史は決して1本調子に発展も後退もしない。かといってジグザクに進むのでもない。ある時には後戻りしているようにも見えるが、確実に過去をアウフヘーベン(止揚)しながら、いわばらせん形に進んでいるのである。それはまるで「時代」の意思とでもいうべきものが存在し、行き過ぎや過ちを修正しているようにさえ思える。

 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、といわれるが、日本人が歴史に学ばなくなったのはいつ頃からだろうか。恐らく驕り高ぶったバブル経済の頃からではないかと思う。そして最高潮に達したのが小泉政権の頃。
 あの頃、この国と国民は浮かれていた。なんといっても国のトップからして「なんてたってア〜イドル」と自分のことを歌っていたぐらいだから。
 そんな首相に浮かれた国民は「私に反対する勢力が抵抗勢力!」という言葉に踊り(踊らされではない)、熱に浮かれたように小泉改革を支持した。
 「改革」とは「改正」なのか「改悪」なのか、「改革の中身」は何なのかをよく考えもせずに。
 気が付いた時には、「総中流」社会といわれたこの国はアメリカ並みの格差社会になり、国民の大半は中流から下流に押しやられていた。それでも下流になったのは「自己責任」だと言い、まだ頑張れば中流、上流に上がれるんだという幻想を持っていた人達が多かった。とりわけ若い人達の間に。

 しかし、「派遣切り」に始まった大幅な人員整理や、世界経済悪化という状況を目前にして、当時「小泉改革」を熱狂的に支持した人達でさえ「小泉改革とは何だったのか」と、今頃疑問を呈し始めている。
 だが、遅すぎるということはない。総括と反省はしないより、した方がいいし、するならきちんとした方がいい。
 あの頃、この国の民は思考停止に陥っていた。自分の頭で考えるのをやめ、単純な論理に従いたがっていた。誰かに道を示して欲しかった。こちらの道を進め、と。
自分の頭で考えるよりその方が楽だから。
 約70年前にも同じようなことをし、軍部の言うがまま、なすがままに戦争に突き進んでいったし、幕末の頃には「ええじゃないか、ええじゃないか」と歌いながら踊る「ええじゃないか運動」が流行した。
 不透明な時代の閉塞感と苛立ち、諦念が綯(な)い交ぜになっての思考停止状態。
ひたすら踊り狂うことでトランス状態を引き起こす一種の麻薬作用に頼ることで、目の前の問題を真剣に考えることから逃避したのである。

 そのツケがいま回ってきた。
 首相という立場を除けば、麻生さんの最近の言動はバカ正直というか当事者意識がないというか、いずれにしろ、当時この国が陥っていたトランス状態を正直に吐露している。
 郵政民営化の中身や具体的な手順、民営化後の姿をきちんと議論せず(もちろん、きちんと示さず)、とにかく民営化するんだ、規制緩和だ、と言葉のみが先走り、郵政民営化に反対する自民党議員には離党を迫り、選挙区に「刺客」を送り込むという、まるで戦前・戦中の反対意見を力で封じ込めるという民主国家では例を見ない滅茶苦茶なことをやった。
 それでも圧倒的多数の国民は「郵政民営化」「規制緩和」「構造改革」という踊りをやめるどころか、ますます狂喜乱舞して踊り続けたのである。
 9日の衆院予算委員会で「(総選挙で)問うたのは郵政民営化。4分社化ではない」と答弁し、翌日のぶら下がり会見で4分社化を「法律的にはあん中(法案)に入ってますよ。だけど、あの時、4分社化を知っている人は、ほとんどおられないというのが私の認識です。郵政民営化かそうでないかで、あの選挙は問われた」と言っているが、この認識は正しい。政権内にいた大臣の言葉としてはあまりにも他人事に聞こえるが、事実認識は間違っていない。
 あの時、郵政民営化の中身を問題にした自民党議員は「抵抗勢力」という烙印を押され、パージされたのだ。そして国民は言葉に踊らされ、自らの踊りに酔った。

 鳩山総務省が「かんぽの宿」売却に疑念を呈した時、大手新聞社は社説で「総務大臣がいちゃもんを付けて、郵政民営化を後戻りさせようとしている」と論じた。
 ところが、その後、1,000円で売却された施設が全国に7か所もあったり、1万円で売却した施設が6,000万円で転売されていた事実が明るみに出てくると、途端に論調が変わってきた。
 さらに入札手続きそのものにもおかしな点が出てくるに至って、それまで強気で通していた日本郵政の西川社長も「入札の白紙撤回」に言及せざるを得なくなった。
 問題は郵政に限らず民営化の名の下にこうした問題売却が結構あったということで、たまたま今回はそのうちの一部が明るみに出たということだ。
 きれいな言葉は得てして裏に利権を隠していることがある。言葉の美しさに欺されないようにすることが大事だ。
                                            (2)に続く

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