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 汚染米問題の背景にはそれを許す業界の体質も

 汚染米の食用への転用問題が前回指摘した通りの展開になってきた。
転売業者は三笠フーズの他にもどんどん出てきただけでなく、三笠フーズの出荷分を扱った業者・施設が375にも上ることが分かってきた。
 ただし、より一層明確になったのは農水省の対応のいい加減さ、ドタバタ振りである。
 当初、酒造メーカー等5社の名前が公表されたが、その際「公表に同意を得たところ」という注釈がついていたので、それ以上の数があるということは推測できたが、それにしてもここまで多かったとは。
むしろ最初、公表に同意し、回収した業者は正直者だったといえるかもしれない。

 それにしても解せないのは農水省の対応だ。
「ジタバタしない」のではなく、最初からバタバタとやって欲しかった。
事は食の安心・安全に関わる問題である。
情報公開は速やかにすべきである。
ただ、前回も指摘したように米菓、焼酎業界には経営規模の小さいところが多いから、実名公表が経営に大打撃を与える可能性がある。
だから、一方で救済策を考えておかなければならない。

 ところが、福田首相の指示で慌てて全名簿を公表したものだから、関係ないところが含まれていたり、ミスだらけのドタバタ発表になってしまった。
 突然の政権投げ出しなど、首相就任直後からほとんどやる気の見えなかった福田首相だが、今回の件ではリーダーシップを発揮したようだ。
 農水省の対応に業を煮やし、情報を一元化し、野田消費者問題担当大臣を中心に国民への情報発信や再発防止を図るよう指示した点も評価できる。
 こういう場合には省庁横断組織で対応することが必要で、「我々に責任があるとは考えていない」というような、なにはさておき組織防衛に走る農水省に今後の対応を任せていれば、問題はさらに広がりを見せるばかりだろう。

 前回の配信直後にお馴染みの読者、(財)新機能素子研究開発協会企画室長・清水さんから
一業者(複数はあるでしょう)のモラルの問題、また気の毒ですが、買う側にも
スキがあったとも言えますし、食の安全やそれを守る、チェックする行政の怠
慢と(癒着)構造的な欠陥が絡んでる気がします。それは農政に対する根本的な
不信感を煽る物です。

 という指摘があったように転売業者のみならず食に関わる業界そのものの体質にも問題があると思う。

 例えば、いままでもカビが生えるなど多少問題がありそうな米でも使っていた。精米で半分ぐらいは捨てるのだからいまさら問題にするのがおかしい、というようなことを陰で言っている業者もいるのである。

 三笠フーズの汚染米転売自体、ここ1、2年のものではなく10年前から恒常的に行われていたわけであり、それを指示した人物がいた、複数の業者が同じように転売していたということを考えれば、業界の裏ルートとして汚染米の転売は以前から行われていた、それを許す体質が業界にあったといわざるを得ない。
 そしてこのことこそが問題であり、こうした業界の体質を根本から正さなければ、同じような問題はまた起こるだろう。

 では、今回の問題の背景には何があるのかを見てみよう。
1.デフレ不況
 原材料費の値下げ圧力は強く、少しでも安い原材料(この場合は米だが)を求める風潮が強かった。
そこを突いて「多少問題があるが、安い米」を「流通」させた。

2.昨秋からのインフレ圧力
 それまでのデフレ圧力は全体的に価格が下がっていたから「問題米」を買わなくてもまだなんとか対応できた。
 ところが、インフレによる各種原材料費が値上がりし出すと、コスト上昇分を販売価格に転嫁せざるを得ないが、それができるのは業界大手で、中小零細企業は取引先との力関係でコストアップを価格に転嫁できない。
そのため少しでも安い原材料を求めようとする、求める。

3.格差社会の拡大で弱者ほど被害者に
 今回の件で最も注視したいのは、弱者ほど被害者になっていることである。
初期段階では焼酎、米菓業界への転用が発表されたが、最近になって汚染米が学校給食や高齢者福祉施設、医療施設などでかなりの量が使用されていたことが分かってきた。
 共通しているのは中小零細企業や、児童、高齢者などの社会的弱者を抱えた組織が汚染米の被害者になっているということだ。
 特に問題なのは後者で、健康被害はいまのところないとはいわれているが、摂取分量が同じでも、児童、高齢者の方が被害を受けやすい。

 本来なら最も健康に気遣いをしなければいけないところなのに、なぜ、そういう施設に汚染米が使われたのか。
 ひと言でいえば小泉改革の犠牲者にしわ寄せが行ったということだろう。
小泉改革で弱者切り捨てが行われ、様々な組織で予算のカット、切り詰めが行われたし、納入業者から値上げの要求があっても、弱者組織はそれを受け入れるだけの余裕がない。
 納入業者の方も数がまとまっている取り引きだけに、値上げ要求を受け入れないなら取り引きをやめるという措置にも出られない。
 結局、内部でコスト上昇分を吸収するしかなくなり、そこに多少なりとも価格の安い「問題米」を使用する誘惑が生まれる。

 さて、今回の汚染米転用問題はこれで終わるのかどうか。
最も問題にしたいのは実はその点で、今後景気はほぼ間違いなく悪化するだろう。
となると、似たような問題はほかでも起きる可能性は大いにあるだろう。
そうしたことが防げるのかどうかというと、近年の日本人のモラルダウン現象を見れば悲観的にならざるを得ない。

 といって嘆いてばかりいても仕方ないのだが、これは絶対という有効な手立ても即座には思い付かない。
 それでもいえるのは不正はいきなり大きくは行われない。ほとんどの場合、最初は少量から行われる。それが発覚しなければ、次はその倍の量になる。こうしたことを数回繰り返せば、あとは日常的に行われるようになる。
仕舞いには不正をしているという実感さえなくなる。
そうなる前に防がなければならない。

 余談だが、昔、流通業に従事していた時、所長になって最初にしたことは「どうすればごまかせるか」ということだった。
変な話だが、自分が責任者になって、不正をする方法、こうすれば売り上げをごまかせる、という方法を考えたのだ。
そして、責任者の自分でさえ一切ごまかしができないようなチェックルールを作ったのだった。
 まあ、多くの場合、棚卸し、経理チェックを毎日する、あるセクションに同一人物を長期間置かないというような当たり前のことを当たり前にやるということなのだが、案外こういうことができていない。
 大体、複雑な帳簿を作っているところはおかしい。
やはり Sinple is best なのだ。


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