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この店、この会社はなぜ儲かるのか(1)


 のっけから私事で恐縮だが、先月、小型車を買った。当初は中古の軽自動車ぐらいをと考えていたが、普通車と価格が変わらなかったこともあり、結局トヨタの中古車パッソを実家用に買った。BMWを買い換えて1年程だが、そちらは福岡に置いている。
 実家用に小型車を買った理由は毎月、福岡・岡山県北東500km超の運転が段々きつくなりだしたことが一つ。もう一つは、こちらが最大の理由だが、最近高速道路での事故が九州自動車道、中国自動車道でも増え出し、事故に遭遇する危険性が高まり出したからである。

 もう5、6年前になるが昔ベトナム戦争にフィルムジャーナリストとして(今ならビデオジャーナリストだろうが、当時はフィルムを回していた映像ジャーナリスト)現地に何年も赴いていた某氏(故人)が「同じように第1線で取材していた仲間が次々に銃弾で倒れていったが、その頃は弾が自分を避(よ)けていたが、何度目かの戦地入りで弾が段々自分に近付いてきだしたのを感じ、このままベトナムで取材していると次は確実に弾が当たる」と思い、戦地を離れたと語ってくれたが、それに似た感覚を最近、高速道路で感じだした。

 久し振りに国産車を買って驚いたのは、過剰とも言える機能サービスである。エアバックが付いているのは安全対策で歓迎するとしても、CDプレーヤーは付いているし、キーレスでドアの開閉までできるのだ。小型車なのに高級車並みの機能だ。日本人のニーズに合わせたのだろうが、いささか過剰ではないだろうか。走行と安全上必要な最低限の機能でいいのではないか。そういう意味ではインドのタタ自動車は一つの答えだろう。

 さて、本題に入ろう。
ゴールデンウィーク中にちょっと気になる会社と店に出合ったので紹介しよう。
一つは町の小さな鉄工所で、もう一つは地方の小さなうどん屋。共に1等地でもなければ儲かりそうなビジネスでもない。それなのに両者とも儲かっていた。「金儲けが趣味だから」「この辺りの同業の中では稼がしてもらっている方でしょうね」。それぞれに肯定する。なぜ、両者は儲かっているのか。その秘密に迫ってみたい。

他人と同じことでは儲からん

  まず鉄工所。所在地は兵庫県宍粟(しそう)市山崎。国道沿いに広く間口を取り、奥行きはあまりない工場だった。
 見かけたのはGWの最終日。道の駅山崎の駐車場に車を止め、そこから歩いて大歳神社の千年藤を撮影(藤の写真は「栗野的風景」にアップ)に行った帰り道。鉄工所の軒に吊り下げられたドブさらいスコップのようなものが上下に揺れているのを目にしながら半ばまで通り過ぎた。歩道側にはゴミ焼却炉が大小幾つか置かれ、「安い 溝蓋鉄板」「錬金アイデアマン鉄工」と書かれた看板が目に入る。
 「溝蓋鉄板」をPRするあたりがいかにも田舎の鉄工所らしい。経営は大変なんだろうな。そんなことを考えながら工場の前をほとんど通り過ぎようとした時、今度は「地域ナンバー1 ごみ収集箱」と大書された看板が目に止まった。「?」。ごみ収集箱って何。地域ナンバー1って何。ごみ収集箱に何か技術でもあるということなのか。

 暑い最中の撮影で疲れていたし、車に戻って休みたかったが、「地域ナンバー1」という文字に疲れた頭が反応したまま足を止めてしまった。振り返って工場を見る。どう見てもなにか特別な技術がありそうには見えない。やはり帰ろう、と思いつつ、足は工場の方に引き返していた。
 おっさん(という表現がピッタリくる)が1人何やら仕事をしていた。これがまず意外だった。GWに店(工場)を開けていても暇だろう。誰か人がいるにしても事務所でTVでも観ているに違いない、と思っていた。それがまさか、仕事をしていたのだ。
「こんにちは。ゴールデンウィークでも仕事をしているんですね」
地方の鉄工所に飛び込みで客が来ることはまずない。来るのはセールスぐらいだが、こちらの格好はいかにも旅人。一瞥して物売りではない、と判断したのだろう、「そんなの関係あらへん。わしは1年360日仕事や。他人(ひと)と同じことしていたら儲からんやろ」と答え、もうええやろ、はよ帰れ、と言わんばかりに仕事の手を休めず、顔をすぐ手元に戻した。

「ごみ収集箱、地域ナンバー1って書いてありますが、ごみ収集箱って何ですか」
「町がごみ集めに来るやろが。ごみを入れとく箱や。見せたるわ、こっち来てみい」
 そこにあったのは頑丈そうな感じがする鉄製の檻で、特に変わった所も見当たらず、技術的な工夫なども感じられなかった。それなのに、なぜ地域ナンバー1?
「速い、安い、どんな形のものでも作る。よそは規格品を置いて売ってるだけやろ。わしとこは違うで。どんな注文にも応じるさかい。アイデアはわしがどんどん出しよるしな」
「宍粟市だけやないで、佐用町も美作もほとんどわしとこや」
 要はカスタマイズが自由自在で、しかも仕事が速いということだが、製品そのものにはそれ程魅力を感じなかった。
 しかし、この間仕事の手を一切止めないことの方に感心してしまった。むだな動きがないのだ。

 従業員は他にはいないようだが、地方の小さな鉄工所で日曜、祝日もなしで働く程仕事があるということも意外だった。
 話をしている内に分かったのは、同業者が倒産、廃業で激減し、競合相手がいなくなったことが一つ。もう一つは看板にも謳っている「アイデア」。つまり、アイデアを出して客の課題を解決していることだ。
「金儲けが趣味や」「お客さんに喜んでもらって、お金貰えるんやから、こんなにいいことないやろ」
 言葉を少し上品に言い換えれば、「顧客志向」「顧客第一主義」である。

 しかし、これだけでは、なぜこの鉄工所が忙しいのかイマイチ納得出来ない。
そこでさらに質問を変えながら聞き出したのが「営業7割」という言葉。
 物は作っているだけでは売れないので、自ら営業している、と言う。製造より営業の方に7割も力を割いているからこそ儲かるのだと。
 では、どのような営業方法を取っているのか。どういうところに営業しているのか。
同鉄工所で最大の稼ぎ頭はどうやら焼却炉らしいが、この営業先、営業方法が実にユニークだ。「他人と同じことをしてたら儲からん」と言っていたが、なるほど目の付け所が違うと感心。
 その内容については他の機会に譲ることにして、次はもう一つの例を紹介しよう。


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