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「エネミー・オブ・アメリカ」の世界が現実に(1)
〜盗聴社会の怖さ〜


 事実は小説より奇なりというか、小説は現実を一歩先取りしていると言った方がいいか、「エネミー・オブ・アメリカ(原題:Enemy of the State)」の世界が現実になってきた。米国家安全保障局(NSA)により電話や電子メール(以下メール)が傍受されていたのだ。デジタル社会はこの危険性が高いと分かってはいたが・・・。

盗聴社会の怖さ

 「エネミー・オブ・アメリカ」が封切られたのは1998年である。今から15年近く前にこの映画が作られたということをまず記憶に留めて欲しい。そして現在。今年6月、米中央情報局(CIA)の元職員エドワード・スノーデン氏が暴露した国家による個人の通信監視。この二つの出来事があまりにも似通っていることに気付くだろう。違うのは映画ではなく「映画のようなこと」が今現実に起きているということだ。
 それも今回が初めてではない。1970年代初頭のウォーターゲート事件を記憶している方も多いだろう。野党民主党本部(ウォーターゲート・ビル)へ盗聴器を仕掛けるため侵入した犯人が逮捕され、ホワイトハウスとの関係が疑われ、ついにはニクソン大統領(当時)が辞任に追い込まれた、「大統領の陰謀」として有名な事件である。

 以後、アメリカ政府はこうした不法なやり方をやめ、情報のオープン化を行うようになった。とはいえ、盗聴などをやめたわけではない。その逆だ。
 「エネミー・オブ・アメリカ」が封切られた3年後の2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件が起きると、ブッシュ大統領(当時)はテロとの戦いを目的に、令状がなくても米国内の外国人、米国民に対して国際電話や電子メールの傍受、盗聴を許可する「米国愛国者法」を成立させた。いわばいままで非合法に行なっていた通信傍受や盗聴などを合法的に行えるようにしたわけだ。
 では、「米国の安全保障」にかかわる案件かどうかを判断するのはどこかといえばNSAである。要はNSAが必要と認めればいくらでも盗聴できるというわけだ。
 「自由の国(と思われていた)アメリカ」は実は「自由がない国」になっており、政府による監視社会である。「エネミー・オブ・アメリカ」はその恐ろしさを、映画ならでは手法を使い、背後の陰謀を混じえながら描いている。

 映画を観てない方のために内容を簡単に説明しておこう。キャストはウィル・スミスとジーン・ハックマン。私が好きな俳優はジーン・ハックマンで、映画の中では元諜報工作員を演じている。
 事の発端はアメリカ連邦議会で議論されていた、テロ対策のための「通信の保安とプライバシー法案」。この法案は国家による監視権限を拡大し、一般市民のプライバシーを大幅に侵害する恐れがあるため、某下院議員が強硬に反対していた。法案の成立を望むNSAにとって、この議員の存在が邪魔だった。そこで心臓発作による事故死に見せかけ、人気のない湖畔で殺害する。しかし、その一部始終が野鳥観察のために設置されていた無人カメラに記録されていた。
 無人カメラのテープを回収したのは動物研究者で、テープを自宅に持ち帰り、録画画面を見て事の真相を知り、知り合いのジャーナリストにテープを渡そうとするが、テープに録画されたことに気付いたNSAに追われる。彼は逃げる途中で偶然出会った大学時代の同級生の紙袋にテープをこっそり入れる。しかし、そのことを知らない弁護士(ウィル・スミス)は意味もわからずNSAに追われることになる。そこでジーン・ハックマン扮する元諜報工作員に助けを求めるが、ウィル・スミス扮する弁護士はクレジットカードも使用不能にされ、逃げても逃げても居場所を突き止められる。身に着けているものに発信装置が付けられていたり、ケータイばかりか公衆電話から電話をかけても、その場所がすぐ特定され、追手が迫ってくる。とまあ、こんな粗筋だ。

 この映画の見どころは監視社会の現在、特に政府、時の権力者が通信システムを操れば通信の傍受・盗聴によりプライバシーを丸裸にすることなどは序の口で、クレジットカード番号や身分証明書の改ざん等により社会的に存在を抹殺したり、場合によっては犯罪者に仕立て上げることすらできるということを見せつけてくれることである。

 いままでこうしたことは映画や小説の中の出来事だと思われていたが、ウィキーリークスや元CIA職員のエドワード・スノーデン氏等の暴露によりフィクションではなく現実に、いま起きていることだと知らされた。
 しかも、それを行なっているのはアメリカ政府だけでなく、イギリス政府も、そして恐らくそのほかの国も。2009年にロンドンで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議代表団の電話、電子メールを英政府情報機関が傍受していたことも今回明かされた。傍受対象の中にはイギリスの同盟国も含まれていたというから、同陣営ですら安心できない。
 そういえば2000年頃にしきりに話題になった「エシュロン」という巨大盗聴システムの存在もある。米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国で構成され、ギリシャ、スペイン、ドイツ、日本(三沢基地)などにもエシュロンの通信基地があると言われている。もちろん公式にはアメリカ政府もその他の国の政府もその存在は認めてない。かといって否定もしていないが。

 「国家の陰謀」はさておき(さておいていい問題ではないが、あまりにも巨大すぎるので一時横に置き)、もっと身近な問題を考えてみよう。満面に笑みをたたえ、「あなたのお役に立ちたい」とソフトな物腰でやってくる詐欺師のように、我々の生活を便利かつ快適にするとの謳い文句で、それらは静かに、少しずつ、すでに我々の生活の中に入り込んでいるではないか。
 数年前、ある友人が私に言った。「アマゾンは賢いよ。こちらの趣味が分かっているんだから。恐らく以前に買い物をしたのを分析して、この人はこういう趣味だからこういうものを勧めるといいと判断するんだろうね。こちらが読みたいなと思う本を紹介してくるから便利、というか助かるよ。こっちも探す手間が省けるしね」と。
 読者の中にも覚えがあるだろうが、HPやブログに楽天の広告ページが表示され、そこにまるで自分宛のような商品が現れたことが。それを見ながら不思議に感じたことはないだろうか。なぜ私の好みが分かったのか、と。
 これがデジタル社会の便利さと怖さなのだ。私は友人とは反対に、個人の趣味嗜好まで探られている怖さを感じたが。
                           (2)に続く


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