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栗野的視点(No.873) 2025年10月16日
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吉備NC能力開発センター・片山さんに送る挽歌
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この日(8月25日)私は岡山県北東部の実家から岡山中央病院に向かおうとしていた。
同病院に入院している片山雅博さんを帰福前にもう一度見舞うためで、午前中に検査や見舞い客の予定があれば時間か日にちをずらした方がいいと考え、向かう前に彼のケータイに電話した。
すると受話口から聞こえてきたのは本人の声ではなく「この電話は使われておりません」という機械的な音声だった。
あれっ、かけ間違えたか。
そう思い再度かけ直したが、やはり本人ではなく同じメッセージが流れてきた。
えっ、どういうこと?
「電波が届かない所にいるか、電源が入ってないため繋がりません」なら分かるが「使われていません」という音声に戸惑った。
片山さんは昨年9月に会社(吉備NC能力開発センター)の集団検診で胆のうガンが発見され、点滴による抗がん剤治療を11月から行っていると年初に届いたメールで知らされていたから、病状はよくない、ステージ4ではないかとは薄々感じてはいた。
というのは胆のうガンの初期治療は手術が一般的で、中期以降の場合、手術ができず抗がん剤投与しかないからだ。
その後の電話では、抗がん剤投与を数クール続け、5月頃には退院していると言っていたので、じゃあ、その頃会いに行きますよと伝えていた。
4月下旬、退院して自宅で療養中だろうと思い電話をすると「腸閉塞を起こし岡山の国立病院に入院している」とのことだったが、元気そうな様子だったので、それなら夏に帰省した時、自宅に会いに行きますと伝えた。
そして8月4日、帰省して今、岡山県内にいるので、会いに行こうと思っていますがと都合を尋ねると、「1週間前に国立病院から岡山の中央病院に移ったばかり」との返事が返ってきた。
「中央病院って、どこの中央病院ですか」
「岡山市内です」
「岡山市内なら行けますね。見舞いに行ってもいいですか」
「ありがとう、来てください。緩和病棟の方に入院していますから」
緩和病棟と聞き驚いた。緩和病棟とはホスピスではないか。抗がん剤治療は効かなかったのだろうかと急に心配が増し「では、これから行きますから」と伝え、岡山市まで1時間半、車を走らせて病院に向かった。
顔を見ると「20kg痩せました」と言われたが、元が少々太り気味。やつれた感じはなくホッとした。
40分余りも病室に居て「帰福する前にもう一度来ますから」と握手をして別れた20日後である。
よもや急逝とは考えられもせず、病院に電話するが「そのお名前の方は入院されていません」と言われ、「そんなバカな、4日の日に病室に見舞いに行き話をしたのだから」と伝え入院病棟のナースステーションに電話を回してもらったが、「入院患者にはいません。ご家族の方以外にはお伝え出来ません」の一点張り。
個人情報保護法施行以後、何かといえば「個人情報ですから」と個人情報と思えないようなことでも応えようとしない風潮が広まっている。
その一方で何百、何千件という個人情報の漏洩が起きているにもかかわらず、窓口の人間は自分の責任逃れのために「個人情報ですから」とバカの一つ覚えのように繰り返す。
「いい加減にしろ! バカモノが」と最後には怒鳴ったが、怒鳴ってみてもなにも変わりはしない。
自宅の住所は知っているが電話番号までは聞いてないので自宅に電話することもできない。
思案の結果、会社に電話すればもしかすると何か教えてくれるかもと考えた。
ただ同じように個人情報だから教えられないと言われると困るので、私が彼といかに親しいかということを伝え、何とか家族の方に連絡付けられないかと頼んだ。
「片山さんが社長の時や会長になった後も会社にお邪魔し、お会いしたことがある」
「今月4日に中央病院に見舞いに行き話もした。その時はお元気で話もきちんとできた」
「今、長男の方が帰って来られ自宅にいらっしゃると片山さんから聞いている」
そう話すと、片山会長のことをよく知っている人間だと分かってくれたみたいで、「実は先日急に亡くなられたんです」と教えてくれた。
それでは長男の方の電話番号でも分かれば教えてもらえないだろうか、番号を教えるのがまずければ先方に私の番号を伝えてもらっていいから、と告げると、恐らく社長に片山さんの長男の電話番号を教えてもいいかどうか尋ねに行ったのだろう、ほんの少し待たされた後「長男のSさんに電話をして番号を教えてもいいかどうか尋ねます。その後電話することになりますが、それでいいですか」と言われ、1も2もなく了承した。
(2)に続く
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