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グローバル化が招いた食の危険(3)
〜背景にコスト優先圧力



 毒入り餃子事件と毒入り冷凍シシャモ事件は食品テロとでも呼べる事件。一方、雪印乳業の食中毒事件と上海福喜食品の汚染食肉事件はマニュアル形骸化、コスト重視から起きた事件である。
 ここで注意したいのはHACCP認証だから安全というわけではないということだ。「HACCPを導入した施設においては、必要な教育・訓練を受けた従業員によって、定められた手順や方法が日常の製造過程において遵守されることが不可欠」(厚生労働省)なのだが、システムを作って安心する傾向が多くの企業にある。
 今回の場合もそうだ。どんなに立派なシステムでも、それを運用するのは人である。人の教育・訓練が不十分ならシステムは作られただけで活かされずに終わるし、その手順や方法がきちんと遵守されなければシステムはないのも同じこと。作った、導入したという自己満足だけ。まさに画餅である。

中国特有の問題か?

 さて今回の事件、OSIグループのラビンCEOは「私が率いる企業の価値を反映していない」と釈明し、あくまで上海福喜食品に特有の問題だと強調していたが、果たしてそうか。
 仮にもしそうだったとしても、現地企業任せでグループ企業の指導、教育ができてなかった責任は厳しく問われるし、世界各地にある同グループの工場でも同じことが行われているのでは、という疑いの目で見られるのは間違いない。
 何か問題が起きると個別例、特殊例として片付けようとするのはいろんな所でよく見かける傾向だが、今回も同じようだ。

 上海福喜食品が起こした問題はOSIグループの他の工場でも起きている、とニューズウィークが記者の署名入り記事で報じている。(2014年8月5日号掲載)
「床に落ちた肉を拾って生産ラインに戻すのは日常茶飯事」
「誰かが床に落ちた肉をラインに戻したらすべての肉を捨てる規則だが、上司に言っても相手にされなかった」
「肉に唾を吐いたり、顔の汗が垂れるままにしたり、かんでいたガムをうっかり落としても見つからなければそのままにした。生産エリアに入る従業員は全員手を洗うことになっているが、ほとんど誰も洗わない」
 こう証言しているのはウェストシカゴにあるOSIグループの食肉加工工場の元従業員だ。耳を疑うが、こうしたことがHACCP認証工場で日常的に行われているというのだから驚く。

 もはや上海福喜食品の問題ではなく、OSIグループの問題といっても過言ではないだろう。問題にすべきは同グループの衛生管理と、人の教育の問題だ。
 たしかに他の先進国に比べ、中国の衛生管理に問題が多いのは事実だが、日本でも国産表示のものが実は中国産だったり、純米酒と表示されているものが醸造用アルコール入りの本醸造酒だったり、加工肉をステーキと表示したりという食材偽装が蔓延っている。
 また昨年は冷凍庫の食品の上に寝そべったりという事件も相次いだことを考えると、偽装表示、期限切れ商品の「再利用」、食品汚染は、いまやどこの国でも起こる問題だといえる。

背景にコスト優先圧力

 では、なぜこうした問題が起きるのか。
いくつかの理由が考えられるが、一つは賃金を含めた労働環境の問題があるだろう。前出のOSIグループのウェストシカゴ工場で働いている在職期間の長い労働者は「イリノイ州の最低時給8.25ドルを上回る10ドル」をもらっていたようだが、「労働環境は最低」で、「ラバのように働かされた」と不満を述べている。
 こうした労働環境に対する不満が、決められた衛生管理方法を順守しようという方向に向かなかったのは容易に想像できる。
 2013年12月に起きたマルハニチログループのアクリフーズ群馬工場で冷凍食品に農薬が混入された事件では、賃金に対する不満があったと犯行を行った契約社員は主張している。

 もう一つはコスト優先圧力。特に日本企業の場合、品質よりコストを優先する傾向があるとは、海外でよく聞かれる言葉だ。物によっては採算ギリギリか、採算割れの仕事もあると言う。その要求を受け入れなければ仕事がよそにまわる可能性が強いため多少無理をしても受けざるを得ない。だが、近年、中国の人件費上昇は著しく、もはや内部努力だけでは限界に来ているという声も多い。こうしたコスト圧力が商品の「再利用」に向いた側面もゼロではないだろう。
 例えば雪印乳業(当時)の食中毒事件。製造ラインが停電で止まれば、乳材料を廃棄するとマニュアルで決められている。にもかかわらず、そんな「もったいない」ことはできないと廃棄せず「再利用」したために毒素が発生し、食中毒を起こした。

 HACCPの衛生管理方法まで実施している工場が、なぜマニュアル通りに廃棄しなかったのか。まさかマニュアルを知らなかったわけでも、従業員のモラルが低かったわけでもないだろう。いや、案外そうかもしれないが、組織ぐるみということになると、それだけでは片付けられない。
 日頃のコスト優先圧力がボディブローのように効いていたのではないか。経営が厳しかったり、利幅が薄い商品の場合は、「これぐらいは大丈夫だろう」という誘惑が働いたかもしれない。

 現在、多くの分野で力を持っているのは製造業より流通業の方で、値決めの決定権は流通業が持っていることが多い。結果、製造業は非常に薄い利幅でモノを作り続けているのが現状である。
 海外、なかでも中国沿岸部は近年、人件費が高騰している。本来なら人件費のアップ分だけでも値上げしたいところだろう。それができれば問題ないが、価格下方圧力は強まっても緩むことはない。
 当然、経営側の直接間接圧力は現場に伝わる。現場責任者は経営側の意図を察知して、「阿吽の呼吸」で動く。組織的な不正は、国内外を問わず、いずこも同じ構図である。
 8月14日、しゃぶしゃぶチェーンの木曽路が一部店舗で「松阪牛」「佐賀牛」として提供したしゃぶしゃぶや、すき焼きの肉が、実際は単価の安い和牛だったと発表した。偽装表示をしていた3店舗の責任者は「店の利益を増やすためにやった」と言っているようだが、これなどは明らかに利益優先、コストカット圧力を現場が「阿吽の呼吸」で察知し、実行したものといえる。
 国内でさえそうだから、安い製造コストを求めて海外工場で製造している場合(委託生産を含む)はなおのことだろう。
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